どんな場面でも、確認は大事。念には念を入れるに越したことはありません。しかし、十分に気をつけていても、思わぬ偶然が重なることはあるものです。筆者の元同僚薬剤師・Kさんから聞いたエピソードを紹介します。

馴染みのない患者さん

これから渡そうとしているお薬は、立花みなみさん(仮名)のものです。過去の記録を見ると、私はまだ担当歴が無く、名前から顔は浮かびませんでした。

準備ができたお薬を持ってカウンターに立ち、いつものように患者さんの名前を呼びました。「立花さーん、立花みなみさん。お薬のご用意が出来ました」

目の前には2人の若い女性

その呼びかけに近づいてきたのは、2人の若い女性。一緒に待っていた様子はなく、それぞれ離れた場所からカウンターの方へ歩いてきました。とにもかくにも本人確認。「立花みなみさんですか?」と問いかけると、2人して頷き、視線はまっすぐ私の方に向けられていました。

何か引っかかりを感じつつも、そこまで深く考えませんでした。薬の内容に意識が向いていたこともあり、1人は付き添いなのだろうと判断してしまったのです。お薬の説明に入ろうとしたその時、事務員が慌ててカウンターに駆け寄り、私に向かってこう言いました。

「2人とも立花みなみさんです! 名前が一緒の別患者です!」

奇跡の偶然

その言葉を、すぐには理解できませんでした。要するに、彼女たちは同姓同名の赤の他人。事務員によると、たまたま同じ名前の処方せんを受け付けて、たまたま受け付けた順番まで連続していたようです。生年月日を確認することで、該当の立花さんが判明。ひたすら謝り、気を取り直してお薬の説明に入りました。

こんな奇跡はいらない

調剤薬局では一日に何十枚、もしくは何百枚もの処方せんを受け付けます。患者さん一人ひとりに確実にお渡しするために、本人確認がとっても重要。分かっていたのに、まさかの偶然でうっかりミスをしてしまうところでした。

神様のいたずらかとしか思えない、奇跡のムダ遣いのような偶然の重なり方。あのまま気づかずに説明していたら、患者さんの大事な個人情報を他人に伝えてしまっていたでしょう。思い込みの怖さに身震いしつつ、渡し間違いが起きなくてホッと胸をなでおろした出来事でした。

【体験者:40代・女性会社員、回答時期:2025年5月】

※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

ltnライター:S.Takechi
調剤薬局に10年以上勤務。また小売業での接客職も経験。それらを通じて、多くの人の喜怒哀楽に触れ、そのコラム執筆からライター活動をスタート。現在は、様々な市井の人にインタビューし、情報を収集。リアルな実体験をもとにしたコラムを執筆中。