入力ミスによる返金が発生
不注意で、お薬代の計算を間違えてしまいました。相手は橋本さん(仮名)です。品のいい年配の女性で、いつも優雅なふるまいが印象的な患者さんでした。上司に報告し、私は橋本さんに直接電話して事情を説明。彼女は特に怒っている様子は無く、次回の来局時に、差額の10円をお返しすることで話がまとまりました。
数週間後、橋本さんがやって来ます。受付でにこやかに処方せんを差し出してきた彼女に、私はお詫びの言葉を添えて、深く頭を下げました。
人が変わったように顔から表情が消える
すると、にこやかな顔が一変して無表情に。急な変化に戸惑いましたが、必要以上には引き止めず、業務に戻ることに。お薬のお渡しや返金の際も、橋本さんの表情は変わらず、そのまま無言で薬局を後にしました。
「何か気に障るようなことを言ってしまったのだろうか……?」理由が分からぬまま、不安だけが広がります。橋本さんの態度が一変した理由は、次の日に明らかとなりました。
思いもよらなかった原因
翌朝出勤すると、本社から1本の電話が。「昨日の夕方、橋本さんという方からお電話がありました。『〇〇店の林ってスタッフ、お辞儀の角度が深すぎる! あんなに深く頭を下げなくてもいいのに!』と怒っていらっしゃいましたよ」思いもよらないクレームに、言葉が出ません。
慌てて調べると、謝罪時の基本の角度は45度で、深い謝罪では90度とされていました。確かに私のお辞儀は、ほぼ90度でしたが、そこでお叱りを受けるとは夢にも思っていませんでした。誠意を示したつもりの行動が、まさかの逆効果だったようです。
謝ればいいってもんじゃない
もともと部署異動が決まっていたため、このクレームの数日後に私はその店舗を去りました。スタッフの話によると、橋本さんの来局時にはいつも以上に背筋をピン! お辞儀の角度やおつりの渡し方にも注意を払っているそうです。
「伝え方」って本当に難しいなと、つくづく感じた出来事でした。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2024年10月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:S.Takechi
調剤薬局に10年以上勤務。また小売業での接客職も経験。それらを通じて、多くの人の喜怒哀楽に触れ、そのコラム執筆からライター活動をスタート。現在は、様々な市井の人にインタビューし、情報を収集。リアルな実体験をもとにしたコラムを執筆中。