穏やかで協力的な部署
私が営業事務担当として働いていた部署は、20代の女性社員が多く、メンバーの結婚や出産などのライフイベントがたまたま重なっていました。しかし、お互い様という意識が強く、誰かの家庭の事情にも柔軟に対応し合える、とても働きやすい雰囲気でした。
助け合いながら仕事を進めるあたたかい職場でしたが、その空気をよく思っていない人が1人いました。40代の藤田さん(仮名・女性)です。いつも少し上から目線で、若い社員にチクリとした物言いをすることがあり、私たちは内心距離を取っていました。
涙を浮かべた同期
ある日、私の同期の女性が仕事中に家族から電話を受け、祖父の訃報を知りました。彼女はおじいちゃん子で、動揺を隠しきれずにデスクで目に涙をためながら仕事を続けていました。
私はそっと声をかけ事情を聞き、なんとか気持ちを落ち着けようとしていたそのとき、藤田さんが突然大きな声を出したのです。
「なに泣いてるの!? まさか妊娠したんじゃないでしょうね!」
その場にいた全員が息をのみました。
凍りつく空気と、先輩のひと言
あまりに突拍子もない言葉に、同期は驚きで声も出せず、私は怒りよりも呆然としてしまいました。周囲のメンバーもどうしていいかわからず、誰も目を合わせようとしませんでした。
そんな中、隣の席にいた先輩が静かに、けれどきっぱりと声を上げました。
「藤田さん、そういうことを口にする場面じゃないですよ。彼女のおじいさまが亡くなったんです。それに、例え妊娠していたとしてもその反応はおかしいです」
その一言で場の空気がピンと張りつめ、藤田さんは一瞬ポカンとしたあと、気まずそうにうつむき、「あ、そう……それは……ごめんなさい」と小さくつぶやきました。
言葉ひとつが持つ力
先輩の冷静な対応で、同期の表情も少し和らぎ、みんなが彼女にそっと声をかけました。藤田さんの心無い言葉で崩れかけた空気を、先輩のたった言葉が守ってくれたのです。
仲間を思いやる言葉があるだけで、職場はこんなにも温かくなる――。そんなことを実感した忘れられない一日でした。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2024年3月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:Ryoko.K
大学卒業後、保険会社で営業関係に勤務。その後は、エンタメ業界での就業を経て現在はライターとして活動。保険業界で多くの人と出会った経験、エンタメ業界で触れたユニークな経験などを起点に、現在も当時の人脈からの取材を行いながら職場での人間関係をテーマにコラムを執筆中。