入社直後から「愛想がない」と噂されたAさん
私の職場に、高卒で入社したばかりの新人・Aさんが配属されました。10代の若さで社会に飛び込んできた姿に「頑張ってほしい」と思う一方、最初の印象は少し戸惑うものでした。
挨拶をしても聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声での返事で、返事がないこともしばしば。
表情も変わらず無愛想に見えるため、先輩社員たちからは「あの子は愛想がない」「かわいげがない」と噂されていました。
私自身もどう接してよいのか分からず、必要最低限のやり取りしかできません。仕事を教えてもほぼ無反応で、「伝わっているのかな?」と不安になることも多々ありました。
社内では「やる気がないんじゃないか」と陰口を言う人が出てくるほどに。
大量の書類整理を助けてくれた瞬間
ある日、私は大量の書類整理を一人で抱え込んでしまい困っていました。誰も私の状況に気づいてくれない中、真っ先に近寄ってきたのはAさんでした。
Aさんが小さな声で「やります」と言ってくれたのです。さらに、作業はとても丁寧でスピードも早く、みるみる書類が片づいていきます。
そのとき「この子、こんなにできるんだ」と気づかされたのです。
しかも、私が書類の振り分けを間違えそうになると、Aさんはサッと手を伸ばし、自然に正しい場所へ直してくれました。
思わず「ありがとう!」と声をかけると、これまで見たことのない柔らかな笑顔を返してくれたのです。
初めて見せてくれた笑顔
その出来事で、Aさんへの印象は大きく変わりました。表情に出にくいだけで、本人も周囲への関わり方がわからなかっただけなのかも。そう気づいたとき、かつての自分を思い出しました。
私自身も高卒で社会に出た頃、先輩にどう声をかければいいか分からず、不器用に過ごしていたからです。
「本当は一番理解してあげなければならなかったのに、先入観で判断してしまっていた」と、その時強く反省しました。
関係性の変化と学んだこと
その日以来、私のAさんへの接し方は変わりました。挨拶に笑顔を添えると、Aさんも少しずつ小さな声で返してくれる。質問をしてきた時には「聞いてくれてありがとう」と伝えると、安心したような表情を見せるようになりました。
次第に会話も増え、周囲の同僚たちもAさんの仕事ぶりを目にして「頼れる人なんだね」と見方を改めるように。気づけば、Aさんは職場に欠かせない存在となっていました。
「愛想がない」というレッテルの裏には、その人なりの不器用さや努力がある。Aさんのおかげで、私はそんな大事なことを学びました。これからはAさんの良き理解者として、支えていける存在でありたいと思っています。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2024年5月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:北山 奈緒
企業で経理・総務として勤務。育休をきっかけに、女性のライフステージと社会生活のバランスに興味関心を持ち、ライター活動を開始。スポーツ、育児、ライフスタイルが得意テーマ。