祖父を見送る前夜に見た、不思議な夢
祖父が亡くなったときのことです。翌日の火葬を控え、家族や親戚みんなで祖父の家に集まり、最後の夜を過ごすことになりました。悲しみのなか、みんなで思い出話をしたり、静かに祖父のそばで過ごしたりして、長い夜が更けていきました。私も疲れと寂しさで胸がいっぱいになりながら布団に入ったことを覚えています。
夢に現れた学生服姿の青年
その夜、私は不思議な夢を見ました。夢の中に現れたのは、学生服を着た若い青年。見たことのない顔のはずなのに、なぜか直感で「これはおじいちゃんだ」と思ったのです。
青年は地図帳のようなものを広げ、「ここに行きたいんだ」「こんな景色を見てみたい」と、楽しそうに語っていました。その姿は本当に生き生きとしていて、祖父が亡くなったばかりだというのに、不思議と悲しさよりも温かさを感じる夢でした。
アルバムで出会った“夢の中の人”
数日後、葬儀が終わって祖母と一緒に遺品整理をしていたときのことです。アルバムをめくっていると、そこに学生服姿の青年の写真がありました。私は思わず手を止め、声が出ませんでした。夢に出てきた青年と、写真の中の青年がまったく同じ姿だったのです。
祖母に尋ねると、「そうよ、若い頃のおじいちゃん」と答えてくれました。夢で見たのが偶然なのか、それとも何か意味があったのかは分かりません。それでも、あのときの感覚が間違いではなかったと確信できました。
旅を愛した祖父からの温かなメッセージ
私は祖母に、夢の中で地図を見ながら楽しそうに話していたことを伝えました。すると祖母は懐かしそうに微笑み、涙ぐみながら、「若いころから地図を見るのが大好きだったのよ。よく“ここに行きたいなあ”って夢を膨らませていたの」と話してくれました。その言葉を聞いたとき、胸の奥がじんわり温かくなりました。
私にとってあの夢は「おじいちゃんは今もどこかで旅を楽しんでいる」と思わせてくれるような出来事でした。悲しみの中で出会った不思議な体験は、祖父の存在をより近くに感じさせ、今も私の心を支えてくれています。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2025年9月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:辻 ゆき乃
調剤薬局の管理栄養士として5年間勤務。その経験で出会ったお客や身の回りの女性から得たリアルなエピソードの執筆を得意とする。特に女性のライフステージの変化、接客業に従事する人たちの思いを綴るコラムを中心に活動中。