私が家電量販店でアルバイトをしていたときの体験です。接客の現場では、たまにクセの強いお客さんもやってきます。そんな誰もが手を焼いていた問題客を、思わぬ切り口で攻略したのは、店員になって間もない新人アルバイトでした。

店員泣かせの有名客

担当だったカメラ売り場には「店員泣かせ」の異名を持つ、田淵さん(仮名)という常連客がいました。田淵さんは知識豊富なカメラマニアなのですが、常連客といっても商品を買ったことは一度もありません。
売り場に立つ新人を見つけては、あえて一眼レフカメラの接客を求め、マニアックな質問を投げかけてきます。

カメラの世界は奥が深く、新人では到底知識が追いつかないことも。
店員が答えに詰まり、困れば困るほど田淵さんはニヤニヤと笑い、店員の困惑顔を楽しんでいる様子。そして、それを助けようと他のスタッフがヘルプに入っても「この子に接客してもらいたいんだ」と言われ、店側も対応に困っていました。

大型新人、あらわる

最近入った新人アルバイトの森本さん(仮名)は、二十歳になったばかりのギャル風の見た目の女性です。
ある日、森本さんが売り場に立つやいなや、さっそく田淵さんに捕まります。しかし、彼女の対応は他のスタッフと一味違いました。

「お客さん、めちゃくちゃカメラに詳しいんですね。プロのカメラマンみたいでかっこいいっす! 私バカなんで、人助けと思って色々教えてもらえませんか?」と言ったのです。

まさかの「お客さんに教えを乞う」スタイル

そんな森本さんの言葉に、田淵さんも悪い気はしなかったようで、自分の知識を存分に披露し始め、もはやどちらが店員で、どちらがお客さんなのか分からない状態に。

しかし最終的に、田淵さんは自分が解説した一眼レフカメラが欲しくなったのか、なんと商品をお買い上げ。森本さんは商品知識をゲットし、田淵さんも満足している様子、お店は売上ゲット。三方よしの結果になりました。

大満足の結末

接客はマニュアル通りにはいかない場面によく遭遇するものです。
森本さんのやり方は、もちろん人を選ぶ接客方法ではありますが、どうやら田淵さんのニーズにはぴったりとハマったようです。
みんなが満足する方法で売上に貢献した森本さんに、カメラスタッフ全員で拍手を送りました。

【体験者:30代・筆者、回答時期:2012年7月】

※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

EPライター:S.Takechi
調剤薬局に10年以上勤務。また小売業での接客職も経験。それらを通じて、多くの人の喜怒哀楽に触れ、そのコラム執筆からライター活動をスタート。現在は、様々な市井の人にインタビューし、情報を収集。リアルな実体験をもとにしたコラムを執筆中。