これは銀行に勤める友人から聞いたエピソード。新卒で銀行に入社した友人は、1日でも早く一人前になりたくて、日々業務をがんばっていたそうです。そんなある日、突如現れたクレーマーの対応を引き受けることに……。

「時間がねぇんだよ!」

銀行の閉店間際の15時前。ギリギリに滑り込むように、男性のお客様がご来店されました。来店するなり、「明日までに口座が必要なんだ! でも、次の予定があって10分しか時間がないから、急げ!」と大騒ぎ。

ロビーで案内していたスタッフが、少なく見積もっても30分以上はかかると説明するも「待てない! 何とかしろ」と、理不尽なクレームは止まりません。

まさかの私ひとり

そこで、ほんの数日前に窓口デビューしたばかりの新入社員の私が対応することに。

「急いでて、しかもこんなに怒ってるお客様の対応なんて……」と不安がつのるものの、手が空いている銀行員は私ひとり。
「私がやるしかない」自分を奮い立たせ、いざお客様の前へ。「大変お待たせいたしました。私が対応しますので、こちらへどうぞ」とご案内します。

すると、左胸に「若葉マーク」をつけた新人が対応だと知ったお客様から捨て台詞。

「俺は急いでるんだよ! 新人が本当に10分で口座開設の手続きができるのかよ」

やる気スイッチがポチッ

そのセリフにスイッチが入った私は、「絶対に10分で終わらせてみせる」と闘志がメラメラと湧き上がります。
「10分しかお時間がないのですよね? 間に合わせるために、お客様にもご協力いただきたいです」「こことここに間違えずご署名ください」と、やる気スイッチがオン。

「間違えるわけないだろ」と言いながら、書き間違えるお客様。「1発で決めていただかないと、10分以内に完了できる保証はありません。次は絶対に間違えないようお願いします」と、新しい書類を差し出します。

「10分で終わらせないと!」「しっかり書いてください!」本気モードの私の気迫に「わ、わかってるよ……」と徐々に弱腰になるお客様。

ドヤ顔でお通帳を手渡し

結果的に目標の10分以内に口座は完成!
「10分以内に完了しましたね」と、ドヤ顔の私に「お、おう。疑って悪かったな……」とお客様はいつの間にか小さく。

間に合わせたいがために、お客様を少し怖がらせてしまったのは申し訳なかったですが、一人前になりたくて自主練を重ねた結果。努力が「スピードと正確性」を発揮し、誇らしかった出来事です。

【体験者:20代・女性会社員、回答時期:2022年10月】

※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

EPライター:島田歩実
元銀行員として、女性のキャリアやお金にまつわるあれこれを執筆中。アメリカへの留学経験もあり、そこで日本社会を外から観察できたこともライターとしての糧となる。現在はSNSなどを介してユーザーと繋がり、現代女性の声を収集中。