床に続いていた不穏な跡
ある日、いつものようにドラッグストアで働いていた私は、店内の床に赤黒いものが点々とついていることに気がつきました。「インクかな?」と思ったのですが、どう見ても血にしか見えません。
その跡は店の外まで続いているようで、「これって血だよね……」と同僚と話していました。
振り返った先で見たもの
私たちが顔を見合わせて話していると、不意に背後から声をかけられたのです。振り返った瞬間、息が止まりました。そこに立っていたのは、背の高い中年男性。顔面が血まみれで、腕にも所どころ傷がついています。
私は思わず「ヒィッ」と声を漏らし、少し遅れて振り返った同僚も「キャッ」と悲鳴を上げました。突然の異様な事態に、その場の空気が一気に凍りつきました。
絆創膏を求める傷だらけの男性
「ど、どうしたんですか?」と震える声で尋ねると、男性は「そこの歩道で顔面から転んだんだ。絆創膏が欲しいんだけど」と淡々と答えます。
けれど、そのケガは明らかに絆創膏で済むものではありません。それに男性の顔ををよく見ると、鼻の辺りが不自然に腫れていて、目は血走っているように見開いているのです。
「大丈夫」と言い張る声
「絆創膏でどうこうできるケガじゃないですよ。病院に行きましょう!」と伝えたのですが、「痛くないから、そんなに大げさにしなくて大丈夫だよ」と首を振ります。
逆に、その「痛みを感じない」ことが恐ろしく思えました。「もしかすると鼻の骨が折れてるかもしれません」「タクシーを呼びますから、診てもらってください」と、私たちは必死に説得し続けると、やがて男性は観念したように病院へ向かいました。
周囲の冷静な判断で救えるもの
数週間後、その男性が再び来店。「いやぁ、あの時は病院を勧めてくれてありがとう。全然痛くなかったから大丈夫だと思ったんだけど、鼻は折れてるし、他にも何か所か縫ったんだよ」と笑って教えてくれました。
本人が「大丈夫」と口にしても、それは本当の安全を意味しているわけではありません。むしろ、周囲が冷静に見極めなければ危険を見逃してしまうのです。本人の感覚では気づけない危険も、適切な声かけや行動で救えることがあるのだと、強く感じた出来事でした。
【体験者:40代・女性パート、回答時期:2025年9月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:hiroko.S
4人を育てるママライター。20年以上、接客業に従事。離婚→シングルマザーからの再婚を経験し、ステップファミリーを築く。その経験を生かして、女性の人生の力になりたいと、ライター活動を開始。現在は、同業者や同世代の女性などにインタビューし、リアルな声を日々収集。接客業にまつわる話・結婚離婚、恋愛、スピリチュアルをテーマにコラムを執筆中。