働いて初めて知った、薬を渡すまでの工程
私が調剤薬局で働き始めて驚いたのは、薬を患者さんに渡すまでに想像以上に多くの工程があるということでした。薬局に行くとカウンター越しに「お願いします」と処方箋を出して、しばらく待ったら薬が渡される。そのくらいのイメージしかなかったのですが、実際に中に入ってみると、薬剤師やスタッフがひとつひとつ細かな作業を行っていることを知りました。
特に粉薬や塗り薬は、ただ袋に入っているものを渡すのではなく、グラム単位で計量したり、複数の種類を混ぜ合わせたり、均等に分けて個包装したりと、多くの手間がかかっているのです。
子連れの患者さんからの「まだですか?」
ある日、30代の女性・宮口さん(仮名)が3歳のお子さんを連れて来局されました。処方されたのはお子さんの粉薬と塗り薬。ちょうどその日は混雑していたこともあり、調剤に少し時間がかかってしまいました。
しばらくすると、待合室からはお子さんのぐずる声も聞こえ、宮口さんも落ち着かない様子でカウンターに近づいてきました。そして「まだですか?」「なんでこんなに時間がかかるんですか?」と不安そうに尋ねられたのです。
丁寧に説明して和らいだ不安
私は慌てて事情を説明しました。「実は粉薬は、グラム単位で測って、一回分ずつに分けて袋に詰めているんです。塗り薬も、複数の薬を混ぜる処方になっていて、それもあって調製に少し時間がかかっています」と。
すると、宮口さんは驚いた顔をして「えっ! そんなことしてるんですか? 市販品みたいにすぐ出るものだと思ってました」と言われました。理解してくださったことで、宮口さんの不安そうな表情が和らぎ、私も安心しました。
待ち時間に“一言添える”大切さ
薬局で働いていると、待ち時間が長くなるのは決して珍しいことではありません。ただ、患者さんはその理由を知らなければ「どうしてこんなに遅いの?」と不安になってしまいます。
この出来事があってから、私は処方箋を受け取った段階で「粉薬の分包作業がありますので、少しお時間をいただきます」などの一言を添えるようになりました。患者さんの不安を和らげるために大切にしている心配りです。
【体験者:20代・女性会社員、回答時期:2022年3月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:辻 ゆき乃
調剤薬局の管理栄養士として5年間勤務。その経験で出会ったお客や身の回りの女性から得たリアルなエピソードの執筆を得意とする。特に女性のライフステージの変化、接客業に従事する人たちの思いを綴るコラムを中心に活動中。