予算きっちりが私の仕事
フラワーショップで働き始めた頃、花束を作る技術のなかった私の役割は、お客様のご希望や予算に合わせて花材を選び、花束を作る先輩スタッフに連携することでした。
「退職する上司に贈る5,000円の花束」というオーダーであれば、上司のイメージに合わせ花材をチョイス、きっちり予算に合うよう端数は葉物で調整。いつも自分なりに「完璧な組み合わせ」を目指し、先輩に花材を渡していました。
先輩の不可解な行動
ところが、先輩が花束を作り始めると、必ずと言っていいほど途中で花や葉物を追加していくのです。「ご予算ぴったりに揃えました」と伝えても、「ありがとう」と言いながら追加していきます。
私の花材選定が悪いのだろうと悩み、思い切って「花材の選び方に問題があれば教えてください」と尋ねても、「そういうわけじゃないんだけど、なんかちょっと足したくなるのよね」という曖昧な答えしか返ってきません。その言葉の真意がわからず、私は首を傾げるばかりでした。
疑問が解けた瞬間
働き始めて半年が経ち、私も花束を作らせてもらえるようになった時、その疑問がようやく解けました。
フローリストにとって何より嬉しいのは、お客様と、その花束を贈られた人が「きれい!」と喜んでくれる笑顔。その瞬間を思うと、「ここにもう一本、この色の花が入ればもっと良くなる」という気持ちが自然と湧いてきてしまうのです。
それは純粋に「お客様の期待以上のものを届けたい」というフローリストの「職人魂」なのです。先輩が花材を足していたのは、まさにその想いからだったと知りました。
「職人魂」と花束の秘密
花束には、値段以上の想いが込められています。「3,000円でお願いします」と注文されても、実際には3,000円以上の花が入っていることが少なくありません。
その追加分の花こそが、「職人魂」による「おまけ」です。
もし、花束を注文する機会があれば、ぜひ「〇〇円でお願いします」と予算を伝え、あとはフローリストに委ねてみてください。きっと、期待を超える、素敵な花束が手に入るはずです。
【体験者:60代・会社員、回答時期:2025年9月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:Sachiko.G
コールセンターやホテル、秘書、専門学校講師を歴任。いずれも多くの人と関わる仕事で、その際に出会った人や出来事を起点にライター活動をスタート。現在は働く人へのリサーチをメインフィールドに、働き方に関するコラムを執筆。