人々の安全を守ってくれている防犯カメラ。近年は公共の場だけでなく、自宅や店舗への設置も見られます。これは脱毛サロンに勤務していた頃に私が体験した、防犯カメラ映像を要求されたエピソードです。
突然のクレーム来店
ある日、私は施術中にフロントから慌ただしい声を聞きました。予約をしていない二人の主婦が来店し、「店長は? 防犯カメラの映像を見せてほしいんですけど」と大声をあげていたのです。
あいにく店長は別室で施術中。私も施術中でしたがフロントに最も近い個室にいたため、いったん施術を中断して対応することになりました。
水筒騒動
話を聞くと、二人は先日職場体験に来ていた中学生A・Bの母親。昼休憩中にAの水筒が壊れたことで「誰が悪いか」で揉めているとのことでした。
Aは「Bが壊した」と主張し、Bは「Aが自分で落とした」と反論。真相を確かめたいから、防犯カメラの映像を見せてほしいというのです。
しかし、休憩室にカメラはなく、そもそも防犯カメラの映像はお客様に公開できません。
そう伝えると、母親たちは「嘘つき」「防犯意識どうなってるのよ」と暴言を繰り返し、「このことは口コミに書くから」とまで言い出しました。
店長の一言
その時、施術を中断した店長がフロントに姿を現しました。
「休憩室には防犯カメラはありませんが、ここ(フロント)にはあります。先ほどの発言もすべて記録されています。業務妨害罪、侮辱罪、脅迫罪に該当する可能性がありますよ」
落ち着いて言い切る店長に、母親たちは一瞬で黙り込みました。
店長は続けて「ほかのお客様にご迷惑ですのでお引き取りください。水筒はこちらで弁償します」と告げると、母親の一人が「〇〇(メーカー名)のピンク、1リットルタイプよ!」と吐き捨て、二人は去っていきました。
その後、施術を中断していたスタッフ全員が戻りお客様に謝罪。お客様たちが「こんな人いるんですね」「しかもちゃっかり水筒もらう気でしたね(笑)」と和やかな空気にしてくれ、緊張が解けたのを覚えています。
親子のギャップ
翌日、中学生AとBが来店し、「すみませんでした。母を訴えないでください」と涙ながらに謝罪してきました。親の差し金か本人の意思かは分かりませんが、その瞳からは本物の反省が伝わりました。
後にわかった真相は、 Aがテーブルの端に水筒を置き、気づかなかったBの腕が当たって落ちたというもの。店長は、あらかじめ購入しておいた新しい水筒と店の割引券を手渡しました。
以降、中学生たちは現れませんでしたが、後日母親二人が何事もなかったかのように来店。堂々と割引券を使ってお会計をしていきました。
親子の振る舞いのギャップにすっかり動揺してしまった私は、店長の冷静で毅然とした対応に心から感動したのでした。
【体験者:30代・女性・会社員、回答時期:2025年6月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:桜井ひなの
大学卒業後、金融機関に勤務した後は、結婚を機にアメリカに移住。ベビーシッター、ペットシッター、日本語講師、ワックス脱毛サロンなど主に接客領域で多用な仕事を経験。現地での出産・育児を経て現在は三児の母として育児に奮闘しながら、執筆活動を行う。海外での仕事、出産、育児の体験。様々な文化・価値観が交錯する米国での経験を糧に、今を生きる女性へのアドバイスとなる記事を執筆中。日本でもサロンに勤務しており、日々接客する中で情報リサーチ中。