うるさいけど憎めない存在
会社に来ていた年配のベテラン清掃スタッフさん、とにかくキャラが濃い人でした。床掃除をするときは「ガーッ!」と派手な音を立て、社員は心の中で「もう少し静かにしてほしいな」と思っていました。私も椅子に座って仕事をしていたとき、背後の椅子に掃除機をガンガンぶつけられて「おいおい!」と苦笑したことがあります。時には電話中にもお構いなしでモップをゴシゴシかけていくこともありましたが、周囲は苦笑しながらも「まあ、あの人だから仕方ないか」と受け入れていたのです。
文句を言えない理由
とはいえ、そのおばちゃんは5年以上も掃除を担当してくれていて、すっかり会社のなじみの顔。毎回「おはようございます!」と笑顔で挨拶をしてくれたり、元気のない社員を見かけると「どうしたの? ほら笑って! 笑ってれば、きっといいことあるよ!」と元気に励ましてくれたりと気さくで優しい人でもありました。
その明るさと愛想のよさと話しかけやすい雰囲気に誰も文句を言う人はおらず、むしろ“会社の一員”のような存在で、ちょっとした癒しのキャラになっていたのです。
ピリピリ空気に飛び込んだ声
ある日、会議室近くを掃除していたときのこと。上司が部下に理不尽な小言を浴びせている声が廊下に響いてきました。小言の内容は業務に関係のないところまで広がっていき、社員たちは「また始まった……」と顔を伏せ、重たい空気が漂います。しかし、誰も何も言えずに下を向いていたその瞬間──。
掃除のおばちゃんがズバッと一言。
「アンタたち、そんな言い方じゃ誰もやる気出んよ!」
場を救った存在
その場は一瞬シーンと凍りつきましたが、心の中ではみんな「よく言った!」と大拍手。上司も苦笑いを浮かべ、ピリピリしていた空気がふっと和らぎました。社員同士も目を合わせて小さくうなずき合い、「スッとしたね」「ほんとに救われたよ」と後でこっそり話題になるほどでした。
うるさくて時に「勘弁してほしいな」と思うこともあるけれど、やっぱりおばちゃんがいてくれてよかった──その日、職場のみんなが同じ気持ちになったのです。その後もしばらく廊下はざわつき、「やっぱりおばちゃんは最強だね」と笑い合う声まで聞こえてきました。
そして、この時の皆の反応から、彼女がどれだけ社内で愛されているのかを実感することができたのです。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2024年11月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:北山 奈緒
企業で経理・総務として勤務。育休をきっかけに、女性のライフステージと社会生活のバランスに興味関心を持ち、ライター活動を開始。スポーツ、育児、ライフスタイルが得意テーマ。