豪雨被害で市民からの声殺到!!
私がとある自治体の市役所で、窓口対応を担当していたときの話です。ある年、記録的な豪雨によって地域一帯が浸水被害を受けました。自宅の片付けに追われる人や、避難所に身を寄せる人も多く、誰もが先の見えない状況に不安を抱えていました。
役所には問い合わせや苦情が相次ぎ、窓口も電話もてんてこ舞い。職員は不安の声を受け止めながらも、住民の生活を立て直すための支援を行う毎日でした。
怒鳴り込んできた男性
そんな中、60代ほどの男性が窓口に現れました。開口一番、「自宅が浸水したのは役所の対策が不十分だからだ!」と強い口調で訴えます。男性はカウンターに身を乗り出すようにして、「なんでこんな目に遭わなきゃいけないんだ!」と声を荒げました。私は「堤防や排水設備の整備は日頃から行っています」と説明しましたが、男性は納得せず、怒りの矛先を私や他の職員にぶつけ続けたのです。
実際には想定を超える豪雨であり、役所ができる対策には限界がありました。どんな声掛けをしても怒鳴ることをやめない男性に、私は正直「早くこの場から逃げたい」と思ってしまいました。
空気を変えた、他の市民の“ひとこと”
そのとき、やり取りを見ていた別の市民の方が男性に向かってこう言いました。「役所に怒鳴ったって解決しないだろ。一緒に動いてくれる人を責めるな!」そのひとことで、張りつめていた空気が一気に変わりました。まさか他の人から注意を受けるとは思っていなかったのか、怒鳴っていた男性は気まずそうに黙り込み、ぶつぶつと文句を呟きながら帰って行ったのです。
同じ地域で暮らす市民として
実は、職員の中にも自宅が浸水した人がいました。それでも避難所の運営や支援物資の手配に必死に対応し、自分の家のことは後回しにして働き続けていたのです。
理不尽に思える言葉の裏にも「誰かに聞いてほしい」「どうにかしてほしい」という不安が隠れていると思います。でも、職員もまた同じ地域で暮らす市民のひとり。立場の違いを越えて、支え合う姿勢を忘れずにいたいと強く感じた出来事です。
【体験者:30代・女性市職員、回答時期:2025年8月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:辻 ゆき乃
調剤薬局の管理栄養士として5年間勤務。その経験で出会ったお客や身の回りの女性から得たリアルなエピソードの執筆を得意とする。特に女性のライフステージの変化、接客業に従事する人たちの思いを綴るコラムを中心に活動中。