調剤薬局で薬を受け取るとき、薬剤師から症状を聞かれて「えっ?」と戸惑ったり、不満を感じたことのある方もいるかもしれません。今回は、筆者の元同僚薬剤師・美幸さん(仮名)が体験したエピソード。薬局でよくある場面をご紹介します。

初めて来局した男性患者さん

ある日、私が勤める調剤薬局に初めて来局した60代の男性患者さんがいました。受付で処方箋を確認し、薬の準備が終わって、いつものように「今日はどうされましたか?」と声をかけた瞬間、男性の表情が曇り、空気が一気に変わったのを感じました。

医師に話したのに、なぜ薬局でも?

男性患者さんは「さっき医者に全部話した!なんでここでも言わなきゃいけないんだ!」と声を荒げました。突然の反応に私も受付スタッフも驚きましたし、内心「困ったなぁ」と焦る気持ちもありました。ですが、実は薬局の現場では珍しくない出来事です。

患者さんからすると、病院の診察で症状を伝えたばかりなのに、また同じことを質問されるのは「二度手間」だと感じられるのです。

薬剤師の聞き取りは“義務”

しかし、薬剤師による聞き取りは法律で義務づけられています。処方箋には“薬の名前と量”しか書かれていないので、病名や詳しい症状までは分からないのです。さらに薬の飲み合わせや副作用のリスクを確認するためには、患者さんから直接教えてもらう必要があります。「安全のために必要な確認なんです」と必死に説明しましたが……。

結局最低限の質問には答えてくれたものの、男性の表情は険しいまま。最後には「この薬局は面倒くさい!」と吐き捨てるように言って帰ってしまいました。もちろん理解を示してくれる患者さんが多いですが、このように納得が得られないケースもあるのです。

命を守るために必要なやり取り

確かに、病院と薬局で同じことを何度も話すのは面倒かもしれません。しかしそのやり取りがあるからこそ、薬の重複や飲み合わせによるリスクを未然に防げるのです。「患者さんの不安や負担を減らしながら、必要な情報をどう引き出すか」は薬剤師の腕の見せどころです。

薬局での確認は、患者さんを守るためにとても大切なステップです。少しでも「そういう理由があるんだ」と理解してもらえたら、薬剤師としてはとても嬉しいですし、より安心してお薬を受け取っていただけるのではないでしょうか。

【体験者:30代・女性薬剤師、回答時期:2025年6月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

EPライター:辻 ゆき乃
調剤薬局の管理栄養士として5年間勤務。その経験で出会ったお客や身の回りの女性から得たリアルなエピソードの執筆を得意とする。特に女性のライフステージの変化、接客業に従事する人たちの思いを綴るコラムを中心に活動中。