誰もいないのに「いらっしゃいませ」
カウンター式のカフェでは、常にお客さんの出入りに気を配るのがスタッフの仕事。けれどある時から、誰もいないカウンターに向かって「いらっしゃいませ」と口にしてしまうスタッフが続出しました。私自身もつい反射的に声を出してしまい、始めは「勘違いだった」と笑っていたのですが、何度も続くので次第に「今のは一体……?」と妙な感覚に。
共通するスタッフの感覚
不思議に思って他のスタッフに聞いてみると、みんな口をそろえて「視界に人が入った気がして、思わず言っちゃうんだよね」と答えました。見間違いにしては多すぎる……。さらに気になることがもう1つ。お店がどんなに混んでいても、なぜかいつも1つだけ席が空いているのです。空いている席は決まっていて、お店の奥の窓側の席。席はお客さんが自由に決めていいスタイルですが、空いていることに気づいていないのか? それともなんらかの理由があるのか……?
消えた常連さん
ある日、長年勤めているパートさんが何気なく話してくれました。「そういえばあの席にはね、入院していたおじいちゃんがいつも座ってたんだよ。ある時から来なくなっちゃったけどね……」その瞬間、その場にいたスタッフ全員が背筋をゾクリとさせつつも、どこか納得してしまったのです。
今も訪れているのかもしれない
誰もいないカウンターに向かって「いらっしゃいませ」、そして誰も座らない空席。その席に視線を向けるたびに、常連のおじいさんが穏やかに座っている姿が目に浮かびます。「もしかしたら、今もカフェに通っているのかもね」……スタッフの間では、そんな風にささやかれるようになりました。
【体験者:30代・飲食店、回答時期:2024年11月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:Mio.T
ファッション専攻の後、アパレル接客の道へ。接客指導やメンターも行っていたアパレル時代の経験を、今度は同じように悩む誰かに届けたいとライターに転身。現在は育児と仕事を両立しながら、長年ファッション業界にいた自身のストーリーや、同年代の同業者、仕事と家庭の両立に頑張るママにインタビューしたエピソードを執筆する。