占いが大好きな女社長との出会い
保険会社で営業をしていた頃、私は年間取引額2億円という巨大企業の担当を任されました。相手は女社長のタカ子さん(仮名・73歳)。タカ子さんは占いや風水をこよなく信じており、懇意にしている先生がいました。常に「先生に聞いてみる」「先生に相談してから決める」と口にしており、同じ部署のメンバーと共に彼女の言動に振り回され続る日々でした。実際、その占い結果次第で担当者の交代を要求することも珍しくなく、前任者は半年、その前の方も1年も経たずに担当を外されていたのです。
理不尽な要求の数々
私が担当になって1か月ほど経った頃、やはり予想していた試練が……。生年月日や出生時間を尋ねられ、占いで「午前中にしかやる気が出ない性格」と診断されたのです。すると午後に訪問した際、「午前中に来なきゃダメ!やる気もないくせに」と強く叱責されました。訪問ルートの都合で午後しか伺えない事情を上司に相談しましたが、上司自身も毎朝7時半にタカ子さんへ電話をかけてその日の運勢を確認するルールを課せられていて、会社ぐるみで占いに縛られ改善の余地はありませんでした。
ついに明かされた占い師の正体
そんな状況に悩まされながらも、私は疑問を持つように。というのも、タカ子さんは懇意にしている「先生」を一度も紹介してくれなかったのです。思い切って「先生に会わせてください!私も直接占っていただきたいので!」とお願いし続けると、ついにタカ子さんは「先生はいないの」と自白しました。なんと、長年私たちを振り回してきた先生は、最初から存在しない架空の人物だったのです。振り返れば、タカ子さんに都合の良いお告げの数々。ようやく全ての点がつながった瞬間でした。
存在しない占い師から学んだこと
嘘を白状したタカ子さんは、バツが悪そうに笑っていました。それ以来、過剰な要求はぴたりとなくなり、こちらへの態度も柔らかくなったのです。結果的に、取引は穏やかに続行。私はあの経験から、理不尽な要求にもっともらしい理由をつけるのがクレーマーの常套手段だと痛感しました。以来、どんなクレームにも動じなくなったのは、架空の占い師のおかげかもしれません。
【体験者:20代・女性学生、回答時期:2014年12月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:Ryoko.K
大学卒業後、保険会社で営業関係に勤務。その後は、エンタメ業界での就業を経て現在はライターとして活動。保険業界で多くの人と出会った経験、エンタメ業界で触れたユニークな経験などを起点に、現在も当時の人脈からの取材を行いながら職場での人間関係をテーマにコラムを執筆中。