工事の騒音に困り果てた夫婦
私の知人が電器店で働いていた頃の話です。
近所で大規模な建設工事が始まり、毎日のように工事の音が響いていました。ドリルの低い振動音や鉄骨を打ち込む金属音が絶え間なく鳴り響き、静かな住宅街の空気をすっかり変えてしまったのです。
特に夏の暑い時期は窓を開けて涼をとることもできず、近隣住民にとっては大きな負担になっていました。
エアコンが一台もなかった家
ある暑い日、とうとう住民の不満が爆発しました。窓を開けられずに困っていた高齢の夫婦が工事現場へ押しかけ「この暑さでどうしろっていうの? 責任を取ってエアコンをつけてちょうだい!」と強い口調で言い放ったのです。
夫婦は顔を真っ赤にし、タオルで何度も汗をぬぐいながら必死に訴えていました。連日の工事音で窓を閉め切るしかなく、室内は蒸し風呂のような状態。
驚いたことに、その家にはエアコンが一台もなく、扇風機とうちわだけで凌いでいたそうなのです。
現場監督の思わぬ対応
夫婦の訴えを受け、まずは深々と頭を下げた現場監督。「ご迷惑をおかけして本当に申し訳ありません。すぐに上に相談し、対応を検討します」と誠実に答えました。
その後、会社とも話し合いを重ねた結果、監督は改めて夫婦のもとを訪ねてこう告げました。
「お詫びとして、ご希望のエアコンを設置させていただきます」
「私たちはエアコンに詳しくないので、お任せします」と答えたという夫婦。監督は「せっかくなら快適に過ごしてほしい」と考え、近くにある知人の電器店に最上位モデルのエアコンを依頼してきました。そして、すぐに取り付け作業が進められることに。
依頼を受けた知人も「まさか一番いいモデルを頼まれるとは!」と驚きながら、思わぬ大仕事に少しラッキーな気持ちになったそうです。
みんなが得をした結末
結果、高齢の夫婦は最新のエアコンで快適に暮らせるようになり、真夏の日々も安心して過ごせるようになりました。
それ以来、工事への不満を口にすることもなくなり、現場監督とも顔を合わせれば笑顔で挨拶を交わす関係に。工事の騒音から始まったやり取りは、思いがけない形で地域の人間関係を良い方向に変えるきっかけとなりました。
知人は最後にこう振り返っていました。
「強い口調での訴えから始まったことだったけど、結局みんなが得をして、いい話になったな」
【体験者:40代・男性(電器店勤務)、回答時期:2023年9月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:北山 奈緒
企業で経理・総務として勤務。育休をきっかけに、女性のライフステージと社会生活のバランスに興味関心を持ち、ライター活動を開始。スポーツ、育児、ライフスタイルが得意テーマ。