新人時代の失敗や思わぬトラブルは、誰にでもあるもの。仕事に真面目で社内でも信頼される筆者の同僚・田中さん(仮名)も例外ではありません。今回はそんな田中さんが新人時代に体験した、真面目さが裏目に出た驚きのエピソードをお届けします。

信頼厚い田中さんの新人時代

田中さんは30代半ばの中堅社員。真面目で責任感が強く、上司や同僚、後輩からも信頼される存在です。幼い頃からご両親に厳しく躾けられたそうで、それが今の真面目さにつながっているのだと納得しました。生活も規則正しく早寝早起きが習慣で、趣味は登山とヨガ、「仕事は体が資本」が口癖です。

そんな田中さんにも、新人時代に一度だけ寝坊をしたことがありました。

交差点での転倒事件

ある日の朝、珍しく寝坊をした田中さん。慌てて駅へ向かう途中、住宅街の交差点であやうく車と接触しかけ、道路に体を強く打ちつけてしまいました。

顔と手をすりむき、血がにじむほどの怪我です。車の運転手がすぐに駆け寄ってきて、「大丈夫ですか?救急車を呼びましょうか?」と心配そうに声をかけてくれました。

田中さんは、ますます遅れてしまうことが気がかりで、骨折はしていないことを確認し、「大丈夫です」と言ってその場を立ち去り、駅に急いだのです。

まさかの上司の言葉

痛む手と顔を押さえながら電車に揺られ、何とか遅刻せずに会社へ到着した田中さん。その姿を見た上司や同僚は「どうしたんだ!」と驚いて駆け寄ってきました。事情を話すと、上司は顔色を変えて怒鳴りました。

「ばかやろう! もし頭を打っていたら命に関わるんだぞ。すぐに病院へ行け!」

「遅刻や欠勤はしてはいけない」と信じていた田中さんにとって、その言葉は衝撃でした。自分の体を本気で心配してくれていると気づいた瞬間、それまで我慢していた痛みと緊張の糸が切れ、堰を切ったように涙があふれました。田中さんは泣きながらタクシーに乗り込み、病院へと向かったのです。

苦い経験が残したもの

「当時は何も知らなかったのよ。なんともなくて良かったわよ」と笑って話す田中さん。あの日以来「余裕を持って出勤すること」を実践しているそうです。

「体あっての仕事だからね。何かあれば迷わず病院に行きなさい」 あの日の上司の言葉を胸に刻み、今、田中さんは後輩たちに優しく語っています。

【体験者:60代・会社員、回答時期:2018年4月】

※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

EPライター:Sachiko.G 
コールセンターやホテル、秘書、専門学校講師を歴任。いずれも多くの人と関わる仕事で、その際に出会った人や出来事を起点にライター活動をスタート。現在は働く人へのリサーチをメインフィールドに、働き方に関するコラムを執筆。