楽しい思い出の裏に、思いがけない出来事が潜んでいることがあります。何気ない行動が原因となり、後から不思議で恐ろしい事態へとつながることも。今回は筆者の次男から聞いた、次男の親友が体験した背筋の凍るようなエピソードを紹介します。

修学旅行での楽しい思い出

中学の修学旅行で、僕たちは日本百景に数えられる有名な渓谷へ行きました。川沿いには「石を投げて対岸の洞窟に入れば願いが叶う」という言い伝えがあり、ガイドさんの案内で全員が石をひとつずつ拾いました。

僕の投げた石は洞窟に届かず、少し悔しい気持ちになりましたが、それも思い出のひとつ。ガイドさんが帰り際、「河原の石は持ち帰らないように」と念を押していたのを覚えています。

親友を襲う悪夢

修学旅行も終わり、いつもの日常が戻って数日が経った頃。僕は、親友のカナタ(仮名)の様子がおかしいことに気づきました。いつもの明るく元気な姿はなく、何か思いつめているようなのです。思い切って「何かあった?」と僕が聞くと、カナタはゆっくりと口を開きました。

「修学旅行から帰ってから、毎晩同じ夢を見るんだ。真っ黒な影が追いかけてきてさ。耳元で『返せ……返せ……』ってささやくんだよ」

青ざめた顔で語るカナタの目は、どこか焦点が合っていないようで、背筋がゾッとしました。カナタはさらに、こう打ち明けたのです。

「実は……あの時の石、持って帰ってきちゃったんだ」

思い出した、母からの警告

そういえば、僕は以前から母に「水辺の石は絶対に持ち帰ってはダメ」と聞かされていました。理由は、川や海は霊が集まりやすいうえに、長い時間をかけて流れ着いた石には“何か”が宿っていることがあるから、と。

僕はカナタのことを相談しました。母は表情を硬くして、きっぱりと言いました。

「その夢は石のせいだと思う。絶対にその辺に捨てちゃダメ。必ず元の場所に戻さなきゃ」

石を渓谷へ返し平穏が戻った

カナタはすぐに渓谷を管理する観光協会に連絡。事情を話し、石を送り返しました。その夜、彼は久しぶりに深く眠ることができ、それ以来黒い影の夢も一度も現れていないそうです。

ただ、石を返送する前夜は「『返せ』と繰り返す声と同時に、冷たい手が肩を掴む感覚まで味わった」といいます。そのことを、震えながら僕に話してくれました。

自然への畏れ

今回のことを通じて、母の言葉がただの迷信ではないと心から思いました。

自然にあるものには、それぞれの役割や意味が宿っている。軽い気持ちで持ち帰ることは、目に見えない何かを怒らせることになるのかもしれません。カナタの身に降りかかった出来事は、自然に対する畏れと敬意を忘れてはいけないと強く教えてくれた一件でした。

【体験者:10代・男性学生、回答時期:2025年8月】

※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

EPライター:hiroko.S
4人を育てるママライター。20年以上、接客業に従事。離婚→シングルマザーからの再婚を経験し、ステップファミリーを築く。その経験を生かして、女性の人生の力になりたいと、ライター活動を開始。現在は、同業者や同世代の女性などにインタビューし、リアルな声を日々収集。接客業にまつわる話・結婚離婚、恋愛、スピリチュアルをテーマにコラムを執筆中。