大切な人を思い出す瞬間は、予期せぬかたちで訪れることがあります。それは夢の中だったり、ふとした日常の中だったり。偶然と呼ぶには不思議な出来事に心を揺さぶられることもあるのです。今回は、筆者の妹が体験した、忘れられない不思議なエピソードを紹介します。

父の姿を夢で見た夜

小さい頃から不思議なものが見える体質の私ですが、10年ほど前に亡くなった大好きな父だけは、夢であっても見えたことがありませんでした。ところが1年前の3月のある夜、父が夢に現れたのです。久しぶりに会えた喜びと同時に、これまで姿を現わしてくれなかったことに寂しさを感じていた私は、「どうして今まで姿を見せなかったの?」と問いかけました。父は「ははは」と笑うだけ。「今日はどうしたの?」と尋ねると、「迷わないように、ちょっと迎えにな……」と少し寂しげな表情で静かに答え、生前と同じように後ろで手を組んだままゆっくりと歩いて行きました。

翌朝の知らせ

翌朝、実家の母から連絡がありました。近所に住む和彦さん(仮名)が行方不明になったというのです。昨夜9時過ぎには寝ている和彦さんの姿を奥さんが確認しているのですが、朝になると布団は空っぽ。和彦さんには少し認知症の症状があったため、地域の人や警察、消防団が総出で探すことになりました。そんな中、私は夢で聞いた父の「迎えに」という言葉が頭から離れませんでした。

和彦さんと父の関係

その日の夕方、和彦さんは川べりで冷たくなっている状態で見つかりました。必死に探していたみんなの表情が沈む中、私は昨夜の夢を思い出し、胸が締め付けられる思いでした。父と和彦さんは同い年の幼馴染。大人になってからも変わらず仲が良かったのです。父の葬儀の時に見せた、和彦さんの寂しげな顔を思い出しました。

絆が導いた再会

夢に現れた父の言葉は偶然だったのかもしれません。けれど私は、父の大切な幼馴染が迷わないよう迎えに来たのだと思っています。夢で最後に見た父の後ろ姿は、まるで和彦さんを導いているようでした。
人と人との絆は、死を超えても続いていくものだと感じました。日々の関わりや思いやりの積み重ねが、目には見えなくても確かな繋がりを未来へ残していく。あの夜の夢は、そのことを改めて教えてくれた出来事でした。

【体験者:30代・女性パート、回答時期:2025年8月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

EPライター:hiroko.S
4人を育てるママライター。20年以上、接客業に従事。離婚→シングルマザーからの再婚を経験し、ステップファミリーを築く。その経験を生かして、女性の人生の力になりたいと、ライター活動を開始。現在は、同業者や同世代の女性などにインタビューし、リアルな声を日々収集。接客業にまつわる話・結婚離婚、恋愛、スピリチュアルをテーマにコラムを執筆中。