自宅で行われた葬儀
今の時代、葬儀はセレモニーホールで行うことが一般的。ですが、私の住む地域では自宅で葬儀をする家庭も多く、その場合、近所の人が手伝いに行くのが習わしです。8年ほど前、近所の50代の男性が亡くなり、自宅での葬儀となりました。生前親交のある人だったこともあり、私は準備から葬儀まで手伝いに行ったのです。
帰路に広がる薄闇
葬儀を終え、外に出ると日はすっかり傾き、雨も降り出していました。歩いて行ける距離とはいえ、徒歩で来たことを少し後悔。通りの周囲には木々が生い茂り、街灯も少なく、車通りもほとんどありません。ちょうど”逢魔が時”と呼ばれる時間帯に1人で帰路につくのは心細かったのです。
追いかけてくるもの
恐怖心を押し殺しながらしばらく歩いていると、雨音に交じって別の足音が聞こえてきました。お手伝いにきた近所の人だと思い振り返りましたが、誰もいません。気のせいかと歩き出すと、また後ろから「ヒタ、ヒタ」という音が響きます。それはまるで裸足で歩いているような音。「これは人間じゃない……」恐怖が込み上げ、小走りになると、足音も同じように早まってついてくるのです。
闇に浮かんだ存在
必死に家の前までたどり着き、振り返ると、街灯の明かりの届かない場所に黒い影のようなものが立っているのが見えました。全身が凍りつき、言いようのない不安に襲われた私は、普段お清めの塩は使わないのですが、すぐに塩を手に取り体に振りかけてから家に入りました。出迎えた義母は無言で私の肩を払ってくれて、ようやく息をつくことができたのです。
境界が揺らぐ時
葬儀という特別な場は、この世とあの世の境界が曖昧になるのかもしれません。今でもあの時のことを思うとゾッとします。けれど、人の営みの中には説明できない世界が確かに隣り合わせにあるのだと、強く思わされた出来事でした。
【体験者:70代・女性パート、回答時期:2025年8月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:hiroko.S
4人を育てるママライター。20年以上、接客業に従事。離婚→シングルマザーからの再婚を経験し、ステップファミリーを築く。その経験を生かして、女性の人生の力になりたいと、ライター活動を開始。現在は、同業者や同世代の女性などにインタビューし、リアルな声を日々収集。接客業にまつわる話・結婚離婚、恋愛、スピリチュアルをテーマにコラムを執筆中。