後になれば笑える話だけれど、その時は真剣に悩んでいた、ということがありますよね。今回は、筆者が以前勤めていた職場で起きた“全員参加”のダイエット旋風と、高級制服にまつわるエピソードをご紹介します。

セレブ志向の公認会計士事務所

私がかつて勤めていた公認会計事務所の所長は、超がつくほどの高級志向でした。身に着けるものから生活スタイルまで、まるで絵に描いたような“セレブ”。

事務員3名を連れて、月に1度の高級レストランと年1回の豪華リゾート旅行が恒例でした。そんな居心地の良い職場で働き始めて3年目のある日、突如として事務所に“ダイエット旋風”が巻き起こったのです。

全員参加のダイエット

「ダイエットを始めます!」──それは、所長の宣言から唐突に始まりました。

所長は40代後半に差しかかり、体形が変わってきたことを気にしていたようです。宣言以降の徹底ぶりに、やがて事務員全員が乗り気に。事務所は一気に“健康推進クラブ”と化したのです。

お昼はサラダランチに、デザートは禁止。どうしてもお腹が空いた時はこんにゃくゼリー。最初は辛かったのですが、互いに目標体重までの達成率を競うようになり、徐々にゲーム感覚で楽しくなっていきました。 結果は上々。3か月後には全員スリムになり、私も人生初の「7号サイズ」を手に入れました。

高級制服とプレッシャーの日々

目標達成のご褒美に所長が用意してくれたのは銀座にある高級店のオーダーメイド制服でした。1着10万円以上はするであろう高級品で、細身になった体にぴったりとフィット。袖を通すたびに背筋が伸び、仕事へのモチベーションもアップしました。

しかし、目標を達成するとブームはあっけなく終息。いつの間にか食生活は元に戻り、食後の甘いお菓子が復活。とうぜん制服は日に日にきつくなっていきます。しゃがむたびに裏地がミシッと鳴り、「今、何か変な音がしなかった?」と同僚に聞かれるたび、「そう? 気のせいじゃない?」とごまかす日々でした。もう一度痩せようと思っても、今度は何をしても体重が落ちません。

制服からの解放

毎朝制服を着るたびに「これが入らなくなったら辞めるしかない」と密かに覚悟を決めていた矢先、交際相手の地方転勤が決まり、結婚のため退職することが急に決まりました。私はまさに、身も心も制服から解放されたのです。

振り返れば、あの高級制服は、私の社会人生活で最も贅沢で、同時に苦々しい思い出です。

【体験者:60代・女性会社員、回答時期:2025年8月】

※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

EPライター:Sachiko.G
コールセンターやホテル、秘書、専門学校講師を歴任。いずれも多くの人と関わる仕事で、その際に出会った人や出来事を起点にライター活動をスタート。現在は働く人へのリサーチをメインフィールドに、働き方に関するコラムを執筆。