引っ越し先で見つけたお気に入り
僕が小学6年生の時、家族で広い一軒家に引っ越しました。自分の部屋を持てたことが嬉しくて、毎日ワクワクしながら生活していました。
その家は少し古く、どこか祖母の家に似ていて落ち着く雰囲気。その中でも特に気に入っていたのが、味のあるタイル張りのお風呂です。僕は湯船にゆっくり浸かる時間が何よりも大好きでした。
視界の端に見える黒い影
状況が変わったのは中学に入ってしばらくした頃。僕の視界の端に、黒い影のようなものがちらつくようになったのです。
お風呂に入っている時には、鏡にもそれが映ることがありました。最初は気のせいだと思っていたけれど、頻繁に見える黒い影に恐怖を感じ、湯船に浸かる時間も次第に短くなっていきました。
湯船にも入れない……
ある日、授業中に板書をノートに写していると、耳の後ろ辺りに何かの気配を感じました。ちらっと目をやると、僕の顔のすぐ横に、黒くて長い髪の毛が見えるのです。
お風呂場で見えた黒い影は、学校にまで現れるようになっていました。
さらには、何を言っているのかは分からないけれど声が聞こえることも増え、嫌な感じはしないのに、常にそばにいる気配はやっぱり怖い……。僕は湯船にも入ることができなくなり、朝シャワーに切り替えました。
母から手渡されたもの
僕の様子がおかしいことに気づいた母。「これ、ばあちゃんの形見。母ちゃんが受け継いだんだけど、きっと守ってくれるから」と、数珠を渡してくれました。
手渡されたその数珠を枕元に置いて寝ると不思議と安心でき、そして次第にはあの黒い影も見えなくなっていったのです。
母は、「この家に元々いた存在なのかもね。嫌な感じがしなかったなら、見守ってくれていたのかもしれないけど、さすがに怖いよね」と話していました。
心を守る拠り所
思い返せば、僕は中学校での新生活に不安を感じていました。もしかすると母の言うとおり、その不安を感じ取った“何か”が僕のことを見守ってくれたのかもしれません。それでも、当時の僕にはただただ怖いだけでした。
あれから7年ほど経ち一人暮らしを始めた僕は、時々その時のことを思い出します。見えない存在が全て悪いわけではありません。けれど、恐怖や不安を抱えたままでは心が疲れてしまいます。お守りや数珠のように、安心できる拠り所があるだけで気持ちはずっと楽になる。それを身をもって実感した出来事でした。
【体験者:10代・男性専門学生、回答時期:2025年8月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:hiroko.S
4人を育てるママライター。20年以上、接客業に従事。離婚→シングルマザーからの再婚を経験し、ステップファミリーを築く。その経験を生かして、女性の人生の力になりたいと、ライター活動を開始。現在は、同業者や同世代の女性などにインタビューし、リアルな声を日々収集。接客業にまつわる話・結婚離婚、恋愛、スピリチュアルをテーマにコラムを執筆中。