大切な人との別れの場は、涙だけでなく不思議な感情に包まれることもあります。悲しみの中で訪れる、心が少し和らぐ瞬間。今回は筆者本人が体験した、祖母との別れのエピソードを紹介します。

別れの日は突然に

母方の祖母は、1年前に95歳で亡くなりました。亡くなる2週間前まで近所を散歩する姿が見られるほど、年齢を感じさせない人で「誰にも迷惑をかけずにポックリ逝く!」が口癖でした。そんな祖母も体調を崩したことがきっかけで、心臓の機能が低下。搬送された病院で眠るように息を引き取ったのです。

穏やかな顔で眠る祖母

葬儀までの間、祖母はセレモニーホールに安置されました。棺の中の祖母は、生前と変わらない優しい表情で、まるで眠っているようです。親族や知人が次々と訪れ、最後の別れを告げていました。遠方からも祖母の姪である華さん(仮名)が駆けつけてくれて、部屋には私や母、祖母の弟夫婦、そして私の夫が同席していました。

祖母に語りかける親戚の女性

華さんは祖母の顔を見ながら、「穏やかそうな下で……苦しくはなかった?」と優しく問いかけました。すると、不意に「うん」という返事が聞こえたのです。あまりにも自然な声で、誰が言ったのか分からず、みんなが顔を見合わせました。(祖母の声に似てた……?)しかし、気のせいだろうとその場は収まりましたが、胸の奥にざわめきが残りました。

確かに聞こえた声

少し間を置き、華さんが「いつも元気だったから、もっと長生きするのかと思ってたよ」と、笑い交じりに話しかけました。その瞬間、「ははは。もうじゅうぶん生きたよ」と言う声が! 今度は全員がはっきり聞き取っていました。驚きと同時に、不思議と胸が温かくなる感覚に包まれたのです。

別れは終わりではない

祖母を失った悲しみや寂しさはもちろんあります。けれど、その声を聞いたことで、私たちは笑顔で見送ることができました。別れは肉体との別れであって、心や魂との縁が切れるわけではありません。そう思えるだけで、毎日を前向きに過ごす力が湧いてきます。見えなくても、聞こえなくても、大切な人は想いを寄せた瞬間に、そばに来てくれるのだと思える出来事でした。

【体験者:40代・女性パート、回答時期:2025年7月】

※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

EPライター:hiroko.S
4人を育てるママライター。20年以上、接客業に従事。離婚→シングルマザーからの再婚を経験し、ステップファミリーを築く。その経験を生かして、女性の人生の力になりたいと、ライター活動を開始。現在は、同業者や同世代の女性などにインタビューし、リアルな声を日々収集。接客業にまつわる話・結婚離婚、恋愛、スピリチュアルをテーマにコラムを執筆中。