慣れない手元と不安な表情
先日、私が本屋さんに行った時の出来事です。レジには60代くらいの女性店員。名札には「研修中」と書かれており、電子決済にはあまり慣れていない様子。指先はぎこちなく動き、画面操作に戸惑う手。わずかに震えているようにも見えました。
お客さんが並ぶ中、緊張と不安が入り混じった表情をしており、その姿に思わず胸が締めつけられる思いでした。
額ににじむ汗と緊張の時間
何とか会計は完了したものの、レシートがなかなか出てこない。女性店員は焦りを隠せず、内線で助けを呼ぼうとするも応答はなく、額には汗がにじみ、声も小さく「すみません……すみません……」と繰り返すばかり。
列ができはじめる中、その小さな声と動揺する手元に、見ているこちらまで緊張してしまいました。同時に年齢を重ねると、新しいことを覚えるのはこんなにも大変なのだ、と痛感する瞬間でもありました。
静かに訪れた安心の瞬間
「レシートは大丈夫です」と言って立ち去ろうか。私がそう思った瞬間、後ろから20代くらいの男性店員が静かに女性店員のもとへ近づき、そっとレジの機械を確認しました。
すぐに紙詰まりが原因だと見抜き、さっと紙を直すと、スムーズに出てくるレシート。女性店員は「あ……」と一瞬気まずそうな表情を浮かべましたが、男性店員は大丈夫ですよと言わんばかりに女性店員へ微笑み、静かにその場を離れました。その落ち着いた対応と細やかな配慮に、場の緊張はすっと解け、自然と空気が和みました。
頑張る姿に心が温まるひととき
慣れない電子決済に戸惑いながらも、一生懸命に仕事を覚えようとする女性店員の姿は、紛れもなく尊く、思わず応援したくなりました。
「慣れない操作でも一生懸命取り組んでいらっしゃるのが、とても素敵でした。頑張ってくださいね!」と声をかけると、少し照れくさそうにしながらも、にっこりと笑顔を返してくれました。その瞬間、店内の空気がふんわりと温かくなるようで、小さな出来事なのに胸に残るひとときでした。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2024年8月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:miki.N
医療事務として7年間勤務。患者さんに日々向き合う中で、今度は言葉で人々を元気づけたいと出版社に転職。悩んでいた時に、ある記事に救われたことをきっかけに、「誰かの心に響く文章を書きたい」とライターの道へ進む。専門分野は、インタビューや旅、食、ファッション。