何気なく話しやすい先輩に相談する。職場ではよくある光景ですが、ちょっとした誤解や感情のすれ違いで、人間関係が意外な方向に動くこともあります。
今回は、そんな微妙な距離感に悩んだ、ある先輩とのエピソードを紹介します。

気軽に話せる、職場の相談相手

出版社で働いていた頃のことです。
忙しい日々の中、企画や原稿の進め方に迷う場面は少なくありませんでした。そんなとき、私は自然と同僚の佐藤さん(仮名)に相談することが多かったのです。
特別な理由があるわけではなく、席が近く、ちょっとした雑談から仕事の悩みまで気軽に話せる関係。相談といっても大げさな内容ではなく、ちょっと聞いてほしい程度の話題。

相談のはざまで見えた、敏感な感情

ある日の午後、いつものように佐藤さんと小声で話していると、隣の席の武藤さん(仮名)が突然、真剣な表情で近づいてきました。
「ねえ、なんで私には相談しないの? 私って信頼されてないのかなって思うんだけど……」。不意打ちのような言葉に、一瞬息をのみました。避けていたわけではなく、単に話しやすい相手に話していただけ。そう説明すると、武藤さんは「そういうのって敏感に感じるんだよね」と少し拗ねた様子。途端に、なんとも言えない気まずい空気が流れました。

緊張の沈黙を越えて、歩み寄る瞬間

突然の問いかけに戸惑いながらも、仕事のペースは自分で守りたい気持ちがありました。相談は自然にしたいときにするもので、あらかじめ誰と決めておくものではないと思ったのです。
そこで、「武藤さんにはいつも的確なアドバイスをいただいて助かっていますし、信頼していないわけではありません。ただ、無理に詰められると逆にプレッシャーになるんです」とやんわり本音を伝えました。
少しの沈黙の後、「そうか、ちょっと考えすぎてたかも。ごめんね」と返ってくる歩み寄りの言葉が返り、空気が緩んでほっと胸をなで下ろしました。

人間関係は、少しの配慮と距離から

その日以来、武藤さんの目の届く場所で他の人に相談するのは控えるようになりました。あえて火種を作らないための配慮。
一方で、自分のペースは崩さず、関係も壊さないように意識する日々。職場の人間関係は、ときに仕事以上に繊細な調整を必要とします。面倒に思える距離感も、安定を保つために欠かせない条件なのだと感じました。

【体験者:20代・女性会社員、回答時期:2024年5月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

EPライター:miki.N
医療事務として7年間勤務。患者さんに日々向き合う中で、今度は言葉で人々を元気づけたいと出版社に転職。悩んでいた時に、ある記事に救われたことをきっかけに、「誰かの心に響く文章を書きたい」とライターの道へ進む。専門分野は、インタビューや旅、食、ファッション。