今回は、「商品を勧めること」だけが接客ではないと気づかされた、筆者自身の体験談をご紹介します。私が勤めるアパレルショップには、いつも接客後にクレームのメールが届く常連の女性客がいました。ある日私がその女性客の応対に当たると、意外な一面が見えてきて……?

何をしてもクレームが入るお客様

私がアパレルショップで働いていた頃、30代くらいの女性のお客様が頻繁に来店していました。ただ、その方はどのスタッフが対応しても、夕方には本社宛に「対応が不快だった」といったクレームメールを送ってくるのです。

観察してもスタッフの対応に原因は見つからず、会話のやり取りを文字に起こしてマネージャーに確認しても「特に問題なし」という結果。原因はまったくの謎でした。

またもや担当に

ある日、その女性のお客様を私が担当することに。私が担当するのも初めてではなく、前回も接客してクレームを入れられています。「今回もきっと……」と思いながらも、この日はできるだけ柔らかく声をかけてみました。

すると、ひょんなことから女性のお仕事の話に。女性はため息をつきながら、「最近、休職する人が多くて私の仕事が増えてるの。終わらなかったりミスがあったりすると、上司も余裕がないからカンカンに怒って……」と、仕事でのストレスを抱えていることを打ち明けてくれたのです。いつもとは違うプライベートな話題に、意外にも会話は途切れることなく続きました。

私ができることといえば、女性の話を聞いて共感してあげることくらいかもしれない。私は女性にできるだけ寄り添えるように話を聞き続けました。

表情がほぐれる瞬間

しばらく話していると、女性は「今日はスッキリしたわ。こういう愚痴、誰にも話せなかった」と笑顔を見せました。そして、「店員さんは私のこと知らないから言いやすかったのかも。……それに、私も余裕がなくなって、誰かを傷つけたいって思ってたのかもしれない」と女性から自分を振り返る言葉も。

「……私もそういう気持ち、わかります。実は私も仕事で上手くいってなかった時、フラッと入った店で態度の悪い店員がいて、クレームを入れたことあるんです」

私の告白に、女性は驚いた顔をしてその後笑顔になりました。「ありがとう。仕事は相変わらずだけど、自分を客観視できたわ」と話してくれました。そして「普段頑張ってるんだから、好きな服を買うのって大事よね!」と、服を選び始めました。

「接客」の本当の意味

何着か洋服を購入してくださった女性。最後には「また来るわ」と言ってくれました。その日を境にクレームはなくなり、来店頻度は減ったものの、時々買い物を楽しみに来てくれるように。

スタッフとしては少し行き過ぎた対応だったかもしれません。それでも、お客様の気持ちを少しでも軽くできたのではないかということがこの時一番うれしい成果であり、後悔はありませんでした。

【体験者:20代・販売員、回答時期:2013年8月】

※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

EPライター:Mio.T
ファッション専攻の後、アパレル接客の道へ。接客指導やメンターも行っていたアパレル時代の経験を、今度は同じように悩む誰かに届けたいとライターに転身。現在は育児と仕事を両立しながら、長年ファッション業界にいた自身のストーリーや、同年代の同業者、仕事と家庭の両立に頑張るママにインタビューしたエピソードを執筆する。