今回は筆者本人が体験した、出産前夜に起きた不思議なエピソードを紹介します。
妊娠8か月で破水
三男を妊娠していた私は、6か月頃から切迫早産で地元の産婦人科に入院していました。「9か月まで行けば、この病院で産めますよ」と言われ、あと1週間というところで、突然破水。
すぐに遠方の大学病院へ搬送されたものの、NICUが満床になってしまったため別の病院へ。陣痛を抑える点滴をしても定期的にやってくる痛みに、私の体力はギリギリでした。
陣痛室で1人のはずが
その夜、陣痛室で横になっていると、周囲が妙にザワザワし始めたのです。まるでフードコートにいるような、たくさんの話し声が響いています。けれど、周りには誰もいません。
見渡しても私ひとりだけなのです。そのうち、ザワザワは静かになり、代わりに聞こえてきたのは、少しハスキーな低めの声。
「母ちゃん」
その声が、不思議とお腹の中の子のものだとすぐにわかりました。
不思議な会話
男の子の声は穏やかで、でもどこか大人びていて――。「明日、いや、もう今日か。今日の夕方6時半には会えるよ」そんな風に話しかけてきました。
それから私たちはたくさん話をしました。「色んな病院回ったけど、ここが終着点だね」と呟く私に、「ふざけんな! 俺にとっては出発点だぞ」と返され、ついつい笑ってしまったり。
そして、「今から2時間くらいは痛みが来ないから、ゆっくり寝な」と言われ、楽しい会話の時間は終わりました。それまで15分おきに痛んでいたのに、次に目を覚ましたのは本当に2時間後だったのです。
約束の時間
朝になり、羊水量が少なく陣痛の感覚も短くなってきたため、点滴を外して出産の準備に入りました。けれど、疲れて食欲も出ず、運ばれてきた食事には手をつけられませんでした。
すると、「ちゃんと食え」と、またあの声。お腹の中の息子は、なかなか手厳しいなと思いながら、少しだけ食べることに。夕方になり、いよいよ出産。陣痛室から分娩台へ移って、わずか5分。
小さな産声とともに、三男が生まれてきてくれました。
「18時35分、おめでとうございます!」
助産師さんの声に私はハッとしました。昨夜の声が言っていた通り、夕方6時半。ほとんどピッタリの時間だったのです。
あのとき話しかけてくれた声は、やっぱりこの子だったんだ。そう確信しています。
あの夜と同じ声で
あれから11年。小さく生まれた三男は、今ではクラスでも背が高い方で、毎日元気いっぱい。そして最近は、あのときと同じ、少しハスキーな低い声で「母ちゃん!」と呼んでくれます。
あの夜の出来事は、ただの夢だったのかもしれません。けれど私の中では、確かに”あの子と話した夜”として、今も心に残り続けています。
【体験者:40代・女性パート、回答時期:2025年7月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:hiroko.S
4人を育てるママライター。20年以上、接客業に従事。離婚→シングルマザーからの再婚を経験し、ステップファミリーを築く。その経験を生かして、女性の人生の力になりたいと、ライター活動を開始。現在は、同業者や同世代の女性などにインタビューし、リアルな声を日々収集。接客業にまつわる話・結婚離婚、恋愛、スピリチュアルをテーマにコラムを執筆中。