つい人に話したくなる、昔の栄光や武勇伝。つい自分でも気づかないうちに語ってしまっていた、という人もいるかもしれません。今回は筆者が編集者として働いていた頃に直面した、会議中に「語りたがりスイッチ」が入ってしまった人にまつわるエピソードを紹介します。

準備万端の会議が始まる

私が出版社で編集者をしていた頃の話です。ある日、進行中の案件について打ち合わせがありました。資料は事前にしっかり用意し、内容も整理済み。万全の態勢で臨みました。

会議は順調にスタートしましたが、開始から10分ほどで空気がガラッと変わったのです。

昔話シアター開幕

会議室の一角にいた、少し年配のベテラン男性が口を開きました。

「いやあ、最近この業界って変わったよな。俺が若い頃はさ……」

私が「今回の企画の進行ですが」と話を戻そうとすると、すかさず遮られます。「ちょっと待ってくれよ。昔はな、1本の企画で数百万動くのが当たり前だったんだ。まあ、今の若い連中にはピンとこないかもしれんが」

そこからは、完全に黄金時代に思いを馳せている様子。
「あの頃は1日中営業回りして……編集部全員が血を吐く思いで企画を通したもんだよ」
なんとか話を切り上げようと、「確かにすごい経験ですね。ただ今回は……」と合間を見て口を挟むも、無駄でした。

「昔はさ、編集ってのは命を削ってやるもんだった。今の若い連中は、ちょっと気楽すぎるんじゃないか?」話は止まる気配もなく、議題はどこかへ吹き飛んでいきました。

現場の空気は沈み、議題は置き去りに

会議室の空気は、みるみる重くなっていきました。資料をじっと見つめる人、ため息をつく人、スマホをそっといじる人……表情にも疲れがにじんでいます。

結局、昔話に1時間近く引きずられ、議題も結論もあやふやなまま、会議は終了。

デスクに戻りながら、ふと考えました。「このままじゃプロジェクトが遅れるな……でも、あの人も自分の経験を伝えたかったんだろうな」

そして自問自答。「自分が話すとき、ちゃんと相手のこと考えられてるか?」

武勇伝もほどほどに

この経験以来、私は過去に経験した話をするとき、必ず深呼吸してから言葉を選ぶようにしています。

「今、この場でこの話は必要か?」「相手にとって有益な話になっているか?」

武勇伝や経験談は、タイミングと相手を選んで語るからこそ価値があるもの。そう気づかされた出来事でした。

【体験者:20代・女性会社員、回答時期:2024月8月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

EPライター:miki.N
医療事務として7年間勤務。患者さんに日々向き合う中で、今度は言葉で人々を元気づけたいと出版社に転職。悩んでいた時に、ある記事に救われたことをきっかけに、「誰かの心に響く文章を書きたい」とライターの道へ進む。専門分野は、インタビューや旅、食、ファッション。