化粧品売り場は、商品を試してもらうため、テスターを置いている店舗もあります。誰でも自由に使えるからこそ、他のお客様を思ってマナーを守って使ってほしいもの。今回は、筆者の知人から聞いた、テスターのトラブルに関するエピソードを紹介します。

真っ黒に汚れたテスター用のパフ

私の働くドラッグストアの化粧品売り場では、購入する前の色味や質感を試すために数多くのテスターを設置しています。ただしテスターが充実しているがゆえに、店内で化粧を済ませて何も買わずに帰るお客さんもチラホラ。

ある時期から、特定のファンデーションのパフが真っ黒に汚れていることが増えました。毎日洗浄しているとはいえ、黒く汚れたパフは完全にキレイにはできず、別のパフを用意するしかありません。しかしあまりにも頻繁に汚れていたので、スタッフが交代で化粧品売り場に張り付くことにしたのです。

テスターを使うバッチリメイクの中年女性

化粧品売り場には、毎日来店する常連の中年女性の姿がありました。中年女性は私と軽く雑談しながら、キレイにしたばかりのパフでファンデーションを塗り始めます。そこで私が目にしたのは、みるみる黒く汚れていくパフ!

「まさかこの人だったなんて……」

毎日買い物に来るけれど、店に来るときは必ず化粧している状態。この日も、来店時すでにバッチリメイクだったのです。そして、女性のアイメイクはかなり濃い、黒に近いダークグレー。

どうやら、ファンデーションを塗った際に目元の色がパフに移ってしまっているようでした。パフが汚れる理由はわかったけれど、対応が難しい……。スタッフで相談し、「黒くなっていることに気づいたらやめてくれるのでは」と、黒くなったパフを一度そのままにしておくことに決めました。

作戦失敗? かと思いきや

翌日も女性は来店。パフが黒いままだと気づいたのですが、今度は別のファンデーションを塗り始めたのでした。私たちは意気消沈。作戦は失敗に終わったのです。

しかしその時。化粧品売り場にいた若い女性客が、中年女性に「あの、すみません」と声をかけたのです。

「このテスター、私も使ってみたいって思ってたんですけど、いつも真っ黒なんですよ」

さらに若い女性は続けて、「店員さんが洗ってないんだと思って注意しようとしてたんですけど、あなたが使った後に真っ黒になるんですね。使うなって話じゃないんですけど、もう少し他の人のことを考えてくれませんか?」と言い放ったのです。

スタッフの思いを代弁してくれた若い女性に感謝

若い女性の言葉は、まさに私たちスタッフの思いそのもの。中年女性は自分が汚したパフを持って、「ごめんね、汚れちゃった」と私に告げ、足早に去っていきました。

「申し訳ありません。しっかり洗浄しておきます」若い女性にそう伝えると、「店員さんからは言いづらいですよね。でも、私も試してみたかったのに毎回汚れててイラッとしてたからスッキリしました」と笑って話してくれたのです。

中年女性はその後も毎日来店していますが、テスターのパフが真っ黒になることはその日以降なくなりました。スタッフの気持ちを代弁してくれた女性に救われた出来事でした。

【体験者:30代・女性パート、回答時期:2025年4月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

EPライター:hiroko.S
4人を育てるママライター。20年以上、接客業に従事。離婚→シングルマザーからの再婚を経験し、ステップファミリーを築く。その経験を生かして、女性の人生の力になりたいと、ライター活動を開始。現在は、同業者や同世代の女性などにインタビューし、リアルな声を日々収集。接客業にまつわる話・結婚離婚、恋愛、スピリチュアルをテーマにコラムを執筆中。