調剤薬局は常に患者さんと関わる仕事です。病気と闘う人と接する機会も多く、その姿に勇気と力をもらうことも。今回は、私が調剤薬局で事務として働いていた時に出会った、患者さんとの出来事です。

初めての患者さん

私が調剤薬局に勤めて3年ほど経った頃の話です。ある若い男性Aさんが来局されました。「初めて見る患者さんだな」と思いながら処方箋を確認すると、遠方の医療機関のものでした。「この薬、在庫ありますか? すごい高額の薬らしいんですけど……」処方箋の内容に目を通すと、抗がん剤治療薬。こんなに若い患者さんが……と驚いてしまいました。

高額な薬だったため在庫がなく、Aさんにそのことを伝えると「なんでないんですか? 薬局ってなんでも薬が置いてあるものじゃないんですか?」と強く言い返されてしまいました。その後も「具合悪いから早くしてくれませんか」「入院中も飲んでたし病院で聞いてるので説明はいらないです」などと、強い口調で話すAさんを見て複雑な気持ちになりました。

ひどい副作用

それからは、三週間に一度来局されるようになったAさん。最初の頃はひどい副作用で憔悴していて、声をかけられないくらい辛そうでした。その姿を見て胸が締め付けられる思いでしたが、通院を続けしっかり病気と向き合っている姿を見て、次第に勇気をもらうようになっていきました。

ある日、思いきって「雪が降ってきましたね」と声をかけると、Aさんは「僕、雪が好きなんですよね。スノーボードによく行ってたので、早く行けるようになりたいな」と話してくれたのです。なんでもない会話でしたが、少し笑顔を見せてくれた時、笑えるくらい体調が良くなったのだと感動しました。

次第に元気な姿に

数か月経ったある日、いつものようにAさんが来局され、「やっと副作用が落ち着き、数値も安定してきて、美味しいご飯が食べられるようになりました! 今本当に幸せです」。そのひと言に涙が出そうになりました。

日々好きなものを食べられる幸せ、やりたいことに挑戦できる幸せ、それはすべて当たり前じゃないんだなと改めて気づかされました。

5年の闘病の末、完全寛解

Aさんはその後も治療を続け、5年の闘病生活の末、完全寛解しました。
私はこの出会いから、「当たり前」の幸せに気づき、「何事にも諦めない気持ち」を大切にしていこうと思えるようになりました。

【体験者:20代・女性会社員、回答時期:2017年4月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

EPライター:miki.N
医療事務として7年間勤務。患者さんに日々向き合う中で、今度は言葉で人々を元気づけたいと出版社に転職。悩んでいた時に、ある記事に救われたことをきっかけに、「誰かの心に響く文章を書きたい」とライターの道へ進む。専門分野は、インタビューや旅、食、ファッション。