筆者がホームセンターで勤務していた時のこと。日用品から、かなりマニアックな商品まで揃っていたお店だったため、訪れるお客さんもさまざまでした。そんな中、ちょっと困ったお客さんがやってきて──?

専門知識が必要

大学を卒業し、ホームセンターへ就職した私。専門的な商品の知識を必死に覚え、その努力の甲斐もあってか、工具用品やリフォームコーナーの責任者に就任しました。
通常このような売り場は、日用雑貨売り場に比べて経験や専門的知識が必要となるため、責任者は男性が任されるお店が多いようです。

しかし、私の勤務先の店舗では、前任の責任者も女性。それを引き継ぐかたちで、たまたま女性の私が責任者に任命されたのです。

避けたい売り場

そんな私の担当売り場は、DIYマニアや専門の業者の方も買い物に来ます。そのため、パートの人や新人スタッフにとっては、「避けたい売り場No.1」。知識がないと、受け答えができないためです。

従業員以上に専門用語や知識を知っているお客さんも多いため、なるべくなら接客をしたくないと怖がる従業員もいるほどでした。

女性という理由だけで

そんなある日、「工具用品について詳しく聞きたいお客様が、工具用品売り場にいらっしゃいます。どなたか対応できますか?」という依頼が無線通信機器で流れました。
私がたまたま近くにいたので向かうことに。

売り場に着くと、中年の男性が立っていました。
「大変お待たせいたしました」とにこやかにお客さんに声を掛けます。しかし、私の声が届いていなかったのか返事がありませんでした。

おかしいな、と思いつつも再度「お客様、大変お待たせいたしました!」と声を掛けると、そのお客さんは床をドンドンと足で鳴らしながら「何回もうるせえよ! お前女だろ。女には分からないことだから男を呼べ!!」と言うのです。

びっくりして一瞬かたまってしまいましたが、私はこの売り場の責任者。気持ちをなんとか落ち着けて、再度声をかけました。

「恐れ入りますが、私もこの売り場を担当しておりますので、よろしければご用件をお聞かせいただけますか?」と声をかけます。
すると、お客さんは「だから男を呼べって言ってんだろ!」と怒鳴り声。
これ以上は食い下がらないほうが良いと判断し、私は用件が分からないまま男性社員を呼びました。

男性社員がくると、お客さんは矢継ぎ早に質問を始めます。
「やっと来たか! 工具のこの赤い商品とこっちの青いのは似ているけど、違いは? 値段は青い方が高いし、何が違うの?」
しかし、男性社員は「……えっと、なんだったっけな?」と困った顔をして私に視線を向けてきます。

私はすかさず、「横から失礼します。赤い商品が販売分で廃盤になり、後継品が青い商品です。青い商品は従来の商品と比べて強度も上がっています。しかし、数回の使用なら赤い商品でも十分対応できます。お客様は何回くらいご利用の予定ですか?」と尋ねました。

すると、それまで私の質問に反応してくれなかったお客さんが、「……1回くらい」とバツが悪そうに答えてくれたのです。

静かになったお客さん

そして、お客さんはそそくさと赤い商品を手に取り、静かに売り場から消えていったのでした。

ホームセンターで勤務をしていると、商品知識の有無を性別で判断されることが多々あります。しかし、答えられる質問も多いので、一度は用件を伝えて欲しいものです。

【体験者:20代・女性主婦、回答時期:2021年1月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

EPライター:佐野陽菜里
大学卒業後、企業で管理職として活躍するも、妊娠出産を機に退職。育児しつつ、「自分の言葉で文章を書いて、発信したい」とライターに転身。接客業や恋愛のテーマを得意とし、日々インタビューをして情報を収集。