市役所の窓口にやってきた女性
私は市役所の窓口で働いています。ある日、60代くらいの女性から「息子が最近引っ越したんだけど、新しい住所を教えてもらえます?」と声をかけられました。
驚いて話を聞くと、数日後が息子さんの誕生日とのこと。贈り物をしたいものの、引っ越したあとの住所をまだ聞けていないというのです。もちろん、たとえ家族であっても、こちらから本人の住所を勝手に教えるわけにはいきません。そこで事情を説明し、私はお断りすることにしました。
「私、母親ですよ?」
「申し訳ありませんが、こちらから住所をお伝えすることはできません」そう伝えると、女性は「えっ、私、母親ですよ?」と驚いた様子。「本人には連絡したんですけど、全然返事が来ないんです!」と訴えるのです。
さらに「前の住所も生年月日も全部分かりますよ。それでもダメなの?」と、だんだん声も大きくなっていきました。こちらも繰り返し説明しますが、「家族なのにどうして教えてくれないの!」と、なかなか納得してもらえません。
近くで待っていた男性が……
どうしたものかと困っていた、そのときです。近くで順番を待っていた70代くらいの男性が、「ちょっといいかな」と声をかけてきました。
そして女性に向かって、「お母さんにまだ教えてない住所を、役所から先に聞いたら息子さんもびっくりでしょ?」と穏やかに話します。「贈り物なら逃げないんやから、息子さんから返事が来るまで待ってあげたらどう?」
思いがけず第三者から声をかけられ、女性も先ほどまでの勢いが少し落ち着いたようでした。
スマホを確認すると
「でも、なかなか返事が……」そう言いながら、女性がスマホを確認すると……「あら。来てたわ」なんと、ちょうど息子さんから新住所を知らせる返信が届いていたのです。
先ほどまでとは一転してトーンダウンする女性。男性から「ほら、役所で聞くより早かった(笑)」と言われると、さすがに気まずそうに笑いながら、そのまま帰っていきました。
家族のことなら教えてもらえると思っていた女性。贈り物を早く届けたい一心で少し焦ってしまったのかもしれません。たまたま居合わせた男性の冷静なひと言と、絶妙なタイミングで届いた息子さんの返信によって、思いがけず穏やかに解決した出来事でした。
【体験者:30代・女性公務員、回答時期:2026年9月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:辻 ゆき乃
調剤薬局の管理栄養士として5年間勤務。その経験で出会ったお客や身の回りの女性から得たリアルなエピソードの執筆を得意とする。特に女性のライフステージの変化、接客業に従事する人たちの思いを綴るコラムを中心に活動中。

