当たり前だと思っていた働き方
私は責任ある立場を任されていて、残業や休日対応も珍しくありませんでした。「任された仕事は最後までやるもの」そんな考えを持っていましたし、それが社会人として当たり前だと思っていたのです。
同じ部署には、定時になるときっちり帰る同僚がいました。有給休暇も積極的に使い、趣味や家族との時間を大切にしています。もちろん口には出しませんでしたが、正直なところ「もう少し仕事を優先してもいいのでは」と感じていました。
募っていった不公平感
繁忙期に入ると、部署全体が慌ただしくなりました。私は毎日のように残業を続け、疲れもたまっていきました。集中力が落ちたせいか、小さなミスも増え始めます。そんな状態だったからでしょうか。
定時になると帰宅する同僚を見るたびに、不公平な気持ちが膨らんでいきました。ある日の昼休み、雑談の流れで私はつい言ってしまったのです。「よくそんなに割り切れますね」
すると彼女は少し困ったような表情を浮かべました。私はその反応の意味を、その時は深く考えていませんでした。
知らなかった事情
数日後、その同僚と一緒に外出する機会がありました。移動中の何気ない会話の中で、私は初めて彼女の事情を知ったのです。彼女は毎週、介護が必要な家族のサポートをしていました。
さらに、限られた時間の中で仕事を終わらせるため、人一倍効率を意識して働いていることも教えてくれました。その時、彼女は少し笑いながらこう言いました。「帰ることばかり見られるけど、実は帰るために必死なんです」
私は返す言葉が見つかりませんでした。私は相手の事情を何も知らないまま、表面的な働き方だけを見て判断していたのです。
働き方と仕事への姿勢
その出来事以来、私は考え方を少し変えるようになりました。残業時間ではなく、成果や仕事への向き合い方を見るようにしたのです。すると、これまで見えていなかったことがたくさん見えてきました。
彼女は決して仕事を軽く考えていたわけではありません。むしろ限られた時間の中で結果を出そうと努力していたのです。後日、彼女から「いつもフォローしてくれて助かっています」と声をかけられました。
お互いに率直な気持ちを話せたことで、以前よりも協力しやすい関係になった気がします。働き方は人それぞれです。そして、働き方が違うからといって、仕事への責任感まで同じとは限りません。あの日の出来事は、相手を知ろうとする大切さを改めて教えてくれたのでした。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2026年6月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:佐藤 栄祠
大手メーカーの営業を経て、ライターに転身。会社員時代に培った経験と、組織の一員であるからこその“喜怒哀楽”をリアルに伝え、「誰かを癒したい」との思いが執筆の原動力。スピリチュアル関連情報にも精通しており、それらに傾倒する人の思いを描いたエピソードも好評。

