善意の皮を被った「期限切れのゴミ」
「まだ食べられるわよ。捨てるのはもったいないから、お裾分けね」近所に住む60代の義母から定期的に届く段ボール。開けるたびに、私は言葉を失ってしまいます。
中に入っているのは、数日前に消費期限が切れた食パン、賞味期限切れの調味料など。義母に悪気はないのかもしれません。しかし、30代でフルタイムで働き、幼い子どもを育てる私にとって、いつお腹を壊すかわからない古い食品の処理は、ただの「苦行」でしかありませんでした。
「お義母さん、お気持ちは嬉しいのですが、子どももお腹が弱いので……」 一度、遠回しに断りを入れようとしましたが、義母は「あら、昔の人はこれくらい平気で食べてたわよ」と聞く耳を持ってくれませんでした。
妻のストレスに気づいた夫
結局、届いた食品のほとんどは、夫にも内緒で私がこっそりゴミ箱へ捨てる羽目に。食べ物を無駄にする罪悪感と、義母の押し付けがましい「親切」に、私の精神はガリガリと削られていきました。
ある日の夜、ゴミ箱の奥に期限切れの調味料を隠している私を、夫が目撃したのです。 「……それ、またお袋から?」 私はついに耐えきれなくなって、「お義母さんの好意を無駄にするのも辛いし、でも食べられないし、本当に困ってるの」と、涙ながらに本音を打ち明けました。
夫は私の話にじっと耳を傾け、「今まで一人で抱え込ませてごめん。俺がちょっとどうにかするわ」と、静かに微笑んだのです。
夫が仕掛けた、実家への「お裾分け」
数日後、夫は自宅のキッチンから「あるもの」を集め始めました。それは、我が家で使い切れずに余っていた開封済みのドレッシングや、賞味期限が数日後に迫った非常食の缶詰。 夫はそれらを丁寧に段ボールに詰め、義母宛てに発送したのです。
そしてその3日後、夫のスマホに義母から怒りの電話がかかってきました。 「ちょっと! アンタ何考えてるの!? あんな使いかけの調味料や、期限が切れそうな古いものを送りつけてきて! 仕返しなの!? 失礼しちゃうわ!」
待ってましたと言わんばかりに、夫はスピーカーフォンに切り替え、極めて冷静に、そして優しいトーンで返答しました。「それ、母さんがいつも〇〇(私)に送ってくれるのと同じだよ。母さんは『もったいないから食べるのが愛』って言ってたから仕送りしたんだけど……困るの?」
本当の「良好な関係」へ
「それは……その……」 電話の向こうで、義母が完全に絶句したのが分かりました。
自分が「親切」だと思って嫁に押し付けていたものが、いかに失礼で、貰って困る「ただのゴミ」だったのか。息子から同じことをされて、義母はようやくその迷惑さに気づいたようでした。義母はバツが悪そうに「……もういいわよ!」と言って電話を切りました。
それ以来、義母から期限切れの食品が届くことは一切なくなりました。 代わりに届くのは、百貨店で買った新品の地元の特産品や、もぎたての新鮮な果物ばかり。自分の非を認めて行動を改めてくれた義母とは、今では本当の意味で、お互いを思いやれる良好な関係を築けています。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2026年4月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:北山 奈緒
企業で経理・総務として勤務。育休をきっかけに、女性のライフステージと社会生活のバランスに興味関心を持ち、ライター活動を開始。スポーツ、育児、ライフスタイルが得意テーマ。

