料理は得意じゃないけれど
私は夫と共働きで、結婚してからできる限り家事は分担してきました。ただ、帰宅時間の関係もあり、自然と夕飯は私が作る流れになっています。
正直に言うと、料理はそこまで得意ではありません。スマホで簡単に作れるレシピを調べながら、なんとか毎日続けてきました。
レトルトを使った日のこと
ある日、仕事でバタバタしてしまい、夕飯の一部にレトルト食品を使って用意したことがありました。いつも通り食卓を整えて、あとから帰ってきた夫と一緒に食べ始めます。すると、ひと口食べた夫が少し首をかしげて言いました。「……あれ? これ、麻友が作った?」
ドキッとしながら「今日ちょっと時間がなくて、それはレトルトなんだ〜」と伝えると、夫は少し考えるような顔をしてから「こういうの使うのはな〜……」とぽつり。「ダメなの?」と聞くと、「あんまり好きじゃないかな」と返されてしまいました。
その言葉に少しモヤっとしつつも、(それだけ食事を楽しみにしてくれてるのかな……)と受け止めて、それ以来レトルトは買わないようにしていました。
数年後に思い出した違和感
それから数年後のことです。ふたりでテレビを見ていると、レトルト食品のCMが流れました。その美味しそうな映像を見ながら、夫がぽつりとこう言ったのです。「こういうの使って、俺も料理してみよっかな〜」
私は思わず「え?」と振り返りました。そして、数年前のやり取りが頭に浮かびます。「……レトルトは好きじゃないから使わないでって言ってなかった?」そう聞くと、夫はきょとんとした顔で、「だってそれは、麻友は料理できるから!」と返しました。
その言葉を聞いたとき、(私だって最初からできたわけじゃないのに……)と、これまでのことが一気に頭に浮かんできたのです。
ふたりの中で変わったこと
私は少し言葉を選びながら、「私だって得意じゃなかったけど、ずっとやってたからできるようになったんだよ」と伝えました。そのうえで、「私はレトルトいいと思うし、別に否定しないよ」「……じゃあこれから私も使っていいのね?」と聞いてみました。
すると夫は少し黙ってから、「それは……そうだね、ごめん」と素直に謝ってくれました。それからは、レトルトも気にせず使えるようになり、無理のない範囲で取り入れるようにしています。
さらに、夫もレトルトに頼りながらたまには台所に立つようになり、家事のバランスも少し変わりました。あのときのやり取りがきっかけになり、ふたりの中での当たり前も少しずつ変わっていったように感じています。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2026年2月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:辻 ゆき乃
調剤薬局の管理栄養士として5年間勤務。その経験で出会ったお客や身の回りの女性から得たリアルなエピソードの執筆を得意とする。特に女性のライフステージの変化、接客業に従事する人たちの思いを綴るコラムを中心に活動中。

