妊娠を伝えた日のこと
私は第一子を妊娠しています。それがわかったのは、ちょうど部署異動があって少し経った頃のことでした。まずは課長に報告し、その後、安定期に入ってから部署内にも伝えることにしました。私が「実は……」と切り出すと、周りからは「おめでとう!」と温かい声が上がります。
その中で、よく話す先輩・佐々木さん(仮名・男性)も、笑顔で「おめでとう」と言ってくれました。私はほっとしながら、その言葉をありがたく受け取っていました。
先輩からの思わぬ言葉
ところがその直後……佐々木さんはこんなことを続けたのです。「やっと仕事覚えて戦力になってきたのにな〜」「ちょっと残念(笑)」冗談っぽい口調でしたし、悪気はないのだと思います。たしかに、まだ教えてもらうことも多く、これからもっと頑張ろうと思っていたタイミングでもありました。
私はその言葉をどう受け止めて、どう返せばいいのか分かりませんでした。苦笑いを浮かべるしかなく、つい「すみません……」と小さく答えてしまいました。
課長のたったひと言で
そのときです。やり取りを聞いていた課長が、静かに口を開きました。「佐々木くん。……もし、自分の奥さんが職場で同じことを言われてたらどう思うかな?」たったひと言ですが、その場の空気がシンと止まります。
その言葉を聞いて、佐々木さんは「……あ、たしかに」と言葉に詰まり、少し気まずそうに笑いました。そしてすぐに、「ごめん、今のはよくなかったね」と私に謝ってくれました。自分の奥さんに置き換えて考えたことで、自分の言葉がどう伝わるのか気づいたのだと思います。
心が軽くなった瞬間
私は胸の中に残っていた引っかかりが、自然とほどけたような気がしました。うまく言葉にできなかった違和感を、あの場で課長がさりげなく伝えてくれたことが本当にありがたかったのです。あのときのやり取りは、今でも忘れられない出来事として心に残っています。
【体験者:20代・女性会社員、回答時期:2023年5月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:辻 ゆき乃
調剤薬局の管理栄養士として5年間勤務。その経験で出会ったお客や身の回りの女性から得たリアルなエピソードの執筆を得意とする。特に女性のライフステージの変化、接客業に従事する人たちの思いを綴るコラムを中心に活動中。

