新しく入ってきたパートさん
ある日、私が働いている調剤薬局に調剤補助のパートとして渡辺さん(仮名)が入社してきました。結婚していて、保育園に通うお子さんが2人いるそうです。にこにこして人当たりがよく、誰とでもすぐ打ち解けるタイプで、職場の雰囲気もどこかやわらかくなったように感じていました。
ただ、働き始めてしばらくすると、少し気になることも出てきました。渡辺さんはうっかりミスが多く、店長から注意される場面が度々あったのです。とはいえ、まだ入社したばかり。店長も「次から気をつけてね〜」とやんわり伝える程度で、きつく叱ることはありませんでした。
増えていった『ある発言』
その頃から、渡辺さんはよくこんなことを言うようになりました。「店長ってなんか雰囲気いいですよね〜」「すごくタイプ!」最初は軽い雑談のように聞いていました。でも、その発言は日に日に増えていき、気づけば毎日のように耳にするようになっていたのです。
そしてついには、店長本人に向かって「私、結婚してなかったら店長のこと好きになってました〜!」とまで言うようになりました。店長は苦笑いしながらも、どこか困っている様子でした。
彼女の思いがけない本音
あまりにも頻繁だったので、ある日休憩が重なったとき、私は冗談っぽく聞いてみました。「渡辺さんって店長のこと、よっぽどタイプなんですね!」すると渡辺さんは、あっけらかんと笑いながらこう言ったのです。
「そんなわけないじゃないですか〜!」その言葉に驚いている私に、少し声をひそめて続けました。「店長って、私によく注意してくるじゃないですか……」「だから、好意を伝えといたら、私に甘くなるかなって思って!」
私は一瞬、何を言われたのか理解が追いつきませんでした。
忘れられない違和感
そして渡辺さんはさらに軽い口調で、「私、怒られるのほんっと嫌なので!(笑)」と言いました。その笑い方はいつもと同じで、明るくてやわらかいものでした。
だからこそ、言葉とのギャップに私はなんとも言えない感覚を覚えました。人当たりの良さも、明るい笑顔も、どこか別の意味を持って見えてしまった瞬間だったと思います。
私はその後すぐに産休に入ったため、渡辺さんの言動がどうなったのか、店長との関係性が変わったのかは分かりません。ただ、あのときふたりきりで交わした会話だけは、今でも妙に印象に残っています。
【体験者:20代・女性会社員、回答時期:2022年2月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:辻 ゆき乃
調剤薬局の管理栄養士として5年間勤務。その経験で出会ったお客や身の回りの女性から得たリアルなエピソードの執筆を得意とする。特に女性のライフステージの変化、接客業に従事する人たちの思いを綴るコラムを中心に活動中。

