パートさんのサポート役として
私は調剤薬局に正社員として勤務しており、パートで採用された金田さん(仮名)の業務サポートを任されていました。
金田さんは明るく、患者さんとの会話もとても上手な方でした。受付に立つと自然と場が和み、患者さんもつい話し込んでしまうようなタイプです。ただその一方で、細かなミスが重なったり、同じ間違いを繰り返してしまったりすることもあり、私は少し困っていました。
「お願いね」と言われたあとで
ある日、業務中に金田さんが60代くらいの女性患者さんと楽しそうに話しているのが目に入りました。サプリメントの話で盛り上がり、最後に患者さんが「じゃあそれ、お願いね」と発注を頼んでいます。私は(いい対応だな)と素直に嬉しくなりました。
ところが数日後。私が確認のために「この間お願いされていた商品、発注しました?」と聞くと、金田さんは「あっ……」と一瞬止まり、「忘れてました」とあっさり。悪びれる様子もなく、どこか他人事のような表情でした。私は思わず、「自分が請け負った仕事は、最後まで責任を持ってやってくださいね」と伝えました。
すると金田さんは、「でも私、パートですよ!?」「責任って、正社員じゃないんだし……」と、思いがけない言葉を返してきたのです。
正社員かパートかではなく
そのとき私は、これまでのミスや、指摘してもどこか軽い反応だった理由が少し分かった気がしました。「患者さんにとっては、正社員かパートかって関係ないんですよ」「あの日、患者さんは金田さんと話して、買おうと思ってお願いしたんだと思います」
私が静かにそう伝えると、金田さんは黙り込んでいます。その場では、金田さん自身が納得したのかどうかは分かりませんでした。
「ありがとう」が変えたもの
後日、例のサプリメントが入荷し、患者さんが受け取りに来られました。患者さんは金田さんに向かって、「この間はありがとうね〜! またあなたにお願いするわ」と、笑顔で声をかけてくれました。そのときの金田さんは、本当に嬉しそうな顔をしていました。
それ以降、金田さんは自分が対応した患者さんの件を必ずメモに残し、最後まで確認するようになりました。私が何度も言うよりも、患者さんの「ありがとう」のほうが、ずっと強く心に届いたのだと思います。あのときのやり取りは、私にとっても印象に残る出来事でした。
【体験者:20代・女性会社員、回答時期:2022年1月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:辻 ゆき乃
調剤薬局の管理栄養士として5年間勤務。その経験で出会ったお客や身の回りの女性から得たリアルなエピソードの執筆を得意とする。特に女性のライフステージの変化、接客業に従事する人たちの思いを綴るコラムを中心に活動中。

