薬局でのちょっとした恒例
私の勤めていた薬局では、『かかりつけ薬剤師』に登録している患者さんへご挨拶の年賀状を出していました。かかりつけ薬剤師とは、ひとりの薬剤師を 『担当』として決め、薬の管理や飲み合わせの相談、体調の変化などを継続的にサポートしてもらう制度です。希望者のみが登録する仕組みでした。
年末になると、登録されている患者さんのリストを確認しながら、スタッフで年賀状の準備を進めるのが毎年の恒例となっていました。
「俺には来てない!」のひとこと
ある日、いつものように受付に立っていると、常連の70代男性・山本さん(仮名)がスタスタとカウンターへやってきました。何やら怒っている様子で、私と目が合うなり「知り合いが薬局から年賀状来たって言いよったけど、俺には来てない!」「患者を選んで送っとるんか!」と、強い口調で言ったのです。
私は戸惑いながらもデータを確認します。すると山本さんは、以前『かかりつけ薬剤師』の説明を受けた際に、「自分には必要ない」と登録を断っていたことが分かりました。
まさかの登録理由
私が事情を説明すると、山本さんは少し考え込んだあと、「じゃあ、それに登録したら来年から年賀状ちゃんと来るんやろな?」と、真顔でひとこと。
思わぬ方向の話に、近くにいたスタッフも一瞬手を止めます。結局その場で登録手続きを済ませた山本さんは、帰り際にぽつりと「年賀はがきの当選番号あるやろ? 1枚でも多い方が当たる確率上がるやん」と言い残して帰っていきました。
健康管理のためでも、薬の相談のためでもなく、まさかの『お年玉付き年賀はがき』目当て。その斬新な理由に、私は思わず隣にいたスタッフと顔を見合わせてしまいました。
きっかけは年賀状でも
けれど、それからというもの、山本さんは薬の飲み合わせや体調の変化について以前よりもよく相談してくれるようになりました。最初のきっかけは年賀状だったかもしれません。それでも結果的に、継続的な健康サポートに繋がったのは、薬局としてはありがたいことでした。
今でもふと、あのとき少し得意げに『当選番号』の話をしていた山本さんの顔を思い出して、くすっとしてしまいます。
【体験者:20代・女性会社員、回答時期:2022年1月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:辻 ゆき乃
調剤薬局の管理栄養士として5年間勤務。その経験で出会ったお客や身の回りの女性から得たリアルなエピソードの執筆を得意とする。特に女性のライフステージの変化、接客業に従事する人たちの思いを綴るコラムを中心に活動中。

