席取りはパパにおまかせ
息子の小学校の卒業式の日。私は朝から、そわそわしていました。「席取りはパパに任せるね」と言うと、夫は笑って「任せて!」と返し、先に出発。
数分後、夫からLINEが届きました。「もう場所取ったよ。かなりいい席!」私はホッとし「よし、これで大丈夫」そう思いながら、準備を進めました。
ここ、いい席だよね……?
会場に入ると、夫が案内してくれた席に座りました。確かに席は確保されていましたが、座ってみると壇上も子どもの顔も見えません。思わず夫を見ると、夫はにこっと笑って言いました。「ここ、いい席だよね」。
その言葉に、心の中で小さくツッコミました。「いい席って……見えないじゃん」でも、夫の笑顔は優しくて、嫌な気持ちにはなりませんでした。
見えない席と、夫の優しさ
式が始まり、子どもたちが入場しました。私は必死に背伸びをしますが、やっぱり見えません。それでも背伸びを続けていると、夫が横からポツリと言いました。「ここ、出口に一番近いから。泣き出してもすぐ出られるし、安心だよね!」
その言葉を聞いた瞬間、思わず苦笑いがこぼれました。「そうだね。でも今は、泣く前に見たいんだけど……」しかし、夫の言葉にはちゃんと意味がありました。私のことを気にかけてくれている。それだけで、見えない席も嫌なものではありませんでした。
出口に近い席が、いちばんの名場面
結局、私は背伸びのまま、子どもの姿をほとんど見ることができませんでした。それでも、式が終わった後、夫が「出口に近い席」を指差して自慢げに笑っていたことだけは、はっきり覚えています。
あの卒業式は、子どもの成長を感じる感動の場であると同時に、夫とのちょっとしたすれ違いコントでもありました。今では、笑いながら話せる大切な思い出です。
【体験者:20代・女性会社員、回答時期:2023年3月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:miki.N
医療事務として7年間勤務。患者さんに日々向き合う中で、今度は言葉で人々を元気づけたいと出版社に転職。悩んでいた時に、ある記事に救われたことをきっかけに、「誰かの心に響く文章を書きたい」とライターの道へ進む。専門分野は、インタビューや旅、食、ファッション。

