皆さんはゲームセンターへ足を運ぶ機会はありますか? “騒がしい場所”というイメージで敬遠しがちな方もいるかもしれません。しかし、友人から聞いたのは、ゲームセンターのイメージとはかけ離れたストーリーでした。
もどかしい挑戦
私はゲームセンターで働いています。ある日、外国人の親子が来店。母親と小学生くらいの男の子は、UFOキャッチャーの前で夢中になっていて、どうしても欲しいキャラクターのぬいぐるみがあるようでした。気づけば20回以上も挑戦を続けていて、見ているこちらが思わず応援したくなるほどです。
店のルールでは、お客様から「動かしてほしい」とお願いがあれば、景品の位置を少し整えることができるのですが、こちらから勝手に動かすことはできません。その親子はルールを知らない様子で、何度もコインを入れ続けていました。日本語しか話せない私は声をかけられず、もどかしい気持ちを抱えたまま見守ることしかできなかったのです。
諦めかけた親子
30回ほど挑戦しても成果は出ず、ついに親子は出口へ向かおうとします。男の子の頑張りをずっと見ていただけに悲しい気持ちになったのを覚えています。
そのとき、大きな景品袋をいくつも抱えた男性客がふらりと親子の前を横切ります。それはUFOキャッチャーが上手なことで有名な常連さんでした。彼は親子が遊んでいた台の前に立ち、コインを一枚だけ投入。
「もしかして、取ってあげるのかな?」私や他の従業員も同じ気持ちで目を見張りました。
優しさのかたち
ところが、彼は景品を取りませんでした。器用にクレーンを操作し、ぬいぐるみを“確実にとれそうな位置”に移動させたのです。
そのまま彼は無言で立ち去り、別の台へ。その背中を見送りながら、私は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じました。
その場の皆が幸せになった瞬間
親子はしばらく迷っていましたが、もう一度だけ挑戦することに。クレーンが動かすと、ぬいぐるみは見事に落下口へ。男の子は飛び跳ね、母親も笑顔で抱きしめます。その光景に、周りのお客さんや従業員たちから自然と拍手が起こりました。
帰り際、母親が片言の日本語で「ありがとうございます」とお礼を伝えると、男性は少し照れくさそうに「いえいえ」と笑っていました。彼は景品そのものだけでなく、 “取る喜び”もプレゼントしたのです。
親子の喜ぶ顔、彼のハンドルさばきと優しさ、そして周りの人たちの拍手。あの温かな光景が今でも忘れられません。
【体験者:40代・パート、回答時期:2025年7月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:佐野ひなの
大学卒業後、金融機関に勤務した後は、結婚を機にアメリカに移住。ベビーシッター、ペットシッター、日本語講師、ワックス脱毛サロンなど主に接客領域で多用な仕事を経験。現地での出産・育児を経て現在は三児の母として育児に奮闘しながら、執筆活動を行う。海外での仕事、出産、育児の体験。様々な文化・価値観が交錯する米国での経験を糧に、今を生きる女性へのアドバイスとなる記事を執筆中。日本でもサロンに勤務しており、日々接客する中で情報リサーチ中。

