妊娠中の夜勤
私が妊娠4か月頃の話です。まだお腹はそれほど目立たない時期でしたが、食べづわりがあり、何か食べていないと気分が悪くなる状態でした。それでも勤務形態を変えることができず、夜勤もしていました。
その日の夜勤は、私と先輩看護師Aさんの2人だけ。Aさんは、どちらかと言えば厳しいタイプ。私の同僚や後輩からは少し怖がられている存在でした。例えば、後輩が少しでも失敗すると「なんでそんなこともできないの?」「本当に勉強してきてるの?」と厳しく指導されます。そんなAさんとの夜勤は、私にとって少し憂うつでした。
忙しさと体調の限界
その日は病棟がほぼ満床で、夜勤中に手術を終えた患者さんが戻ってくる予定でした。入院患者さんの検温や食事介助などをしているうちに、あっという間に休憩時間を過ぎていました。
ようやく少し落ち着いき、「そろそろご飯を食べませんか?」とAさんに声をかけようとした矢先、ナースステーションに電話が鳴りました。「今手術が終わったので、30分後ぐらいに帰ります」
私はすでに、食べづわりのせいでムカつきがあり、吐き気を抑えるのがやっとでした。しかし仕事は待ってくれないので、「もう少し頑張らないと」と自分に言い聞かせました。
思いがけない一言
すると、Aさんが静かにこう言ったのです。「手術後の患者さんが帰ってくるまで、座って何か食べてていいよ」一瞬、耳を疑いました。
Aさんは、普段どんなに忙しくても自分が率先して動き、後輩には厳しく指示を出すタイプ。しかも、私が妊娠中で食べづわりがあることは話していませんでした。だからこそ、その一言がとても胸に響きました。厳しい言葉の裏に、ちゃんと人を見ている優しさがあったのだと、初めて気づきました。
看護師らしさ
思えば、Aさんはいつも「自分の仕事に責任を持ちなさい」と口にしていました。その言葉通り、自分にも後輩にも厳しく、患者さんに対しては誰よりも丁寧に対応されていました。
この経験から私自身も、患者さんだけではなく後輩や同僚に対しても、あの夜のAさんのように、さりげなく寄り添える看護師でありたいと思っています。
【体験者:20代・女性看護師、回答時期:2024年4月頃】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:saya.I
総合病院で看護師として勤務を通して、介護や看護の問題、家族の問題に直面。その経験を生かして現在は、ライターとして活動。医療や育児のテーマを得意とし、看護師時代の経験や同世代の女性に取材した内容をもとに精力的に執筆を行う。

