休園は突然に
私は従業員15名ほどの小さな会社で、総務の仕事をしています。ワーママである私にとって、幼い娘の預け先は大事な生命線。そんな保育園が、臨時休園になったことがありました。
あまりに急で、家族や一時保育所も預かりNG。しかし、私は仕事の都合上どうしても出勤しなければなりません。困り果てて、社長に連絡を取ると「子連れ出勤」を提案していただき、娘と一緒に会社へ行くことに。
スタッフの皆さんは私の事情を汲み、あたたかく迎え入れてくれました。
娘は横で塗り絵をしたり、時には他のスタッフが遊び相手になってくれたりしつつ、なんとか仕事を進めることができました。
子連れ出勤のお叱り
しかし、中には子連れ出勤を快く思わない人もいます。その日の昼休み、私は南さん(仮名)から注意を受けました。
南さんは、バリバリ働く50代の女性社員。現在の社長より勤務歴が長い大ベテランです。
「誰も言わないから私が言うけど、ビジネスの場に子どもを連れてくるなんて非常識。仕事に集中できなくて困るわ。今回は多めに見るけど、次からはやめてちょうだい」
南さんの厳しい物言いに、心がえぐられるような気持ちでしたが、ご迷惑をおかけしたことは事実です。ひたすら謝り、同じことが起きないようにベビーシッターのサービスに新たに登録をしました。
都合のいい「助け合い精神」
それから半年後のことです。
「おはようございまーす」と出勤してくる南さん。横には、未就学児らしき子どもを2人連れていました。
「孫をね、預かってって言われちゃったのよ。仕事は休めないし、仕方ないから連れてきちゃった。大目に見てちょうだいね? こういう時は助け合いって大事よね!」
こう言いながら3日間、南さんは子連れ出勤を続けました。
私に厳しく注意したことなど、まるでなかったかのような態度に開いた口がふさがりませんでした。
人の事情は見えにくい
半年前の言葉を思い出すたび、なんとも言えない気持ちになります。
「常識」と「非常識」は立場や状況によって変わることを痛感。「常に相手の事情に寄り添える人でいたい」と胸に刻んだ出来事でした。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2022年6月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:S.Takechi
調剤薬局に10年以上勤務。また小売業での接客職も経験。それらを通じて、多くの人の喜怒哀楽に触れ、そのコラム執筆からライター活動をスタート。現在は、様々な市井の人にインタビューし、情報を収集。リアルな実体験をもとにしたコラムを執筆中。

