新しく入社した、年上の薬剤師
私が調剤薬局で働いていた頃のことです。新しく配属されたのは、50代の薬剤師・鈴木さん(仮名)。年上ではありますが、会社には後から入社してきた新しい仲間でした。
気さくで話しやすい雰囲気があり、最初は「頼れる存在になりそう!」と期待していました。ところが、一緒に働くうちに少し気になる点が見えてきたのです。
何度も繰り返される同じ質問
仕事を教える中で、気になったのが鈴木さんが“頑なにメモを取らない”ことでした。
違う薬局での経験があるから、すでに理解しているのかなと思っていましたが、実際にはそうではありません。同じ作業について何度も質問されることが続いたのです。
しかも、聞かれるたびに患者さんの対応が止まってしまい、他のスタッフも困惑していました。「メモを取って、わからない部分はまた聞いてください」と伝えても、「う〜ん……また教えてください〜!」と笑って流すばかり。職場で一番年上ということもあるのか、他の社員が注意してもあまり気にしていない様子だったのです。
混雑する薬局で起きた一幕
ある日、薬局がとても混雑していたときのこと。鈴木さんは60代くらいの男性患者さんの対応をしていて、会計の作業で分からないことがあり手間取っていました。
周りのスタッフもそれぞれ患者さんの対応をしていて、すぐに質問できる状況ではありません。
すると、男性が少し苛立った様子で「前にもあなたに対応してもらったけど、そのときも同じように時間がかかって、結局ほかの人に聞いていたよ。ちゃんと覚えてくれないと困るよ」と言ったのです。鈴木さんは「すみません……」とバツが悪そうにしていました。
苦言から得られた、思わぬ気づき
その後、私は改めて鈴木さんに「もう一度説明しますから、今度は必ずメモを取ってくださいね」と声をかけました。鈴木さんも真剣に頷き、ようやくメモを取るようになったのです。
もちろん、叱られるのは誰にとってもつらい経験です。でも、あの男性が苦言を呈してくれたからこそ、私たちの注意がやっときちんと届いたのだと感じ、「言ってくださってありがとうございます」と思わず感謝してしまった出来事でした。
【体験者:20代・女性会社員、回答時期:2022年1月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:辻 ゆき乃
調剤薬局の管理栄養士として5年間勤務。その経験で出会ったお客や身の回りの女性から得たリアルなエピソードの執筆を得意とする。特に女性のライフステージの変化、接客業に従事する人たちの思いを綴るコラムを中心に活動中。

