妊娠初期の不安と、職場での配慮
私が調剤薬局で働いていた頃のことです。妊娠が判明したのですがまだ初期で、安定期に入るのは約2か月先のことでした。職場のメンバーには安定期に入ってから伝えるつもりでいましたが、万が一に備えて店長の佐々木さん(仮名・30代男性)にだけは妊娠のことを報告していました。
体調が安定しない時期でもあり、不安を抱えながらの日々でしたが、佐々木さんは「何かあればすぐに言ってね」と気を配ってくれました。私はその言葉に感謝しながら、普段通りに仕事を続けていたのです。
突然の体調トラブル!?
ところがある日の勤務中、突然の出血。
頭が真っ白になり、慌てて同僚に声をかけました。同僚もすぐに「大丈夫? 病院行こう!」と助けてくれたのです。
幸い、かかりつけの産婦人科が職場から近かったため、急いで受診することができました。診察の結果、赤ちゃんは無事でしたが、医師からは「しばらく安静に」という指示が。
油断はできないけれど、大事に至らなかったことにホッとしたことを覚えています。
職場での説明と、店長のひとこと
診察後、一旦職場に戻り、妊娠を伝えていなかったメンバーにも事情を説明することにしました。妊娠していること、勤務中に出血したこと、そして医師から安静にするようにと指示が出たことを伝えると、「大丈夫?」「それはしっかり休まないとね!」と気遣ってくれました。
すると、店長の佐々木さんが口を開きます。
「それって、座って仕事するのもダメなの?」
もちろん佐々木に悪気はなく、何気ない疑問として口にしただけだと思いますが、ただでさえ「迷惑をかけている」と感じていた私にはグサっと刺さります。
同僚女性たちの反応は……?
一瞬場が静まり返ったあと、出産経験のある同僚女性たちが一斉に声を上げました。「そんなに軽いものじゃないんです!」「絶対安静って意味なんですよ!」と力強く反論してくれたのです。
女性陣も佐々木さんを責めるつもりはなかったのですが、佐々木さんはその迫力にたじたじ。少し申し訳なく思いつつも、心の底から安心したのを覚えています。
初めての妊娠でわからないことだらけの中、「わかってくれる人が職場にいる」という心強さは何よりの支えでした。
同時に、男性や妊娠・出産を経験していない人にはわからないことが多いのは当然で、だからこそ伝えていくことが大切なのだと感じました。支えてくれる人の存在の大きさと、理解を深めるための努力の大切さを実感した出来事でした。
【体験者:20代・女性会社員、回答時期:2021年9月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:辻 ゆき乃
調剤薬局の管理栄養士として5年間勤務。その経験で出会ったお客や身の回りの女性から得たリアルなエピソードの執筆を得意とする。特に女性のライフステージの変化、接客業に従事する人たちの思いを綴るコラムを中心に活動中。

