患者さんあるある「保険証失くした」
いつものように外来対応をしていると「保険証がない!」と薬局に患者さんが戻ってきました。彼女の名前は三上さん(仮名)。10分ほど前にお薬をお渡しした、30代の女性です。
保険証に関しては、私の会社では紛失トラブル防止のためにルールを取り決めています。
1. 基本的には預からない
2. 患者さんが差し出してくれた場合は、すみやかに確認し、その場で返す
3. 確認の必要性がある場合のみ、提出してもらう。
三上さんには2番のルールに従って、その場で確認し返却をしていました。しかし、「薬局に出したことは覚えているけど、返却された記憶はない」とお話がありました。
間違いなく返したとは言いきれない
私は保険証を返した覚えがあり、そのことを三上さんにお伝えしますが、ここから「返した」「返してない」の水掛け論が続きました。
念のため、必死に店舗内や調剤かごの中を探しますが、どこにも見当たりません。
三上さんの「返してもらってない」という言葉に、だんだん自信がなくなってしまいました。
「もしかして、誤って別の人にお返ししたのかしら……」
最悪のパターンを想像し、背筋が凍り付きます。
三上さんは不満げな様子で「とにかく見つけたら連絡ちょうだい」と言い残し、帰っていきました。
探し物は、思わぬところから出てくるもの
そこから数十分後、三上さんからお電話がかかってきました。飛び出しそうな心臓をおさえつつ、応対します。
しかし三上さんは先ほどの様子とは打って変わって、消え入りそうなほどの弱々しい声でこう言いました。
「あの、すみません。保険証、車のドアポケットに……はさまってました……」
三上さんは、返却した保険証をビニール袋に入れ、そのまま車の助手席に乗せたそうです。おそらく、その時に袋から落ちて、車のドアポケットに滑り込んだのだろうというお話でした。
気遣いは細部まで
平謝りする三上さん。私はとにかく無事に解決して、心底ほっとしました。
ただお返しするだけで満足してはいけない。今後は受け渡しの最後の瞬間まで、注意して見届けようと決めたのです。そういった小さな配慮が、お互いの安心や信頼につながると学んだ出来事でした。
【体験者:30代・筆者、回答時期:2022年4月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:S.Takechi
調剤薬局に10年以上勤務。また小売業での接客職も経験。それらを通じて、多くの人の喜怒哀楽に触れ、そのコラム執筆からライター活動をスタート。現在は、様々な市井の人にインタビューし、情報を収集。リアルな実体験をもとにしたコラムを執筆中

