会話の中心はいつも旦那さん
私は調剤薬局で薬剤師の仕事をしています。
薬局には、二人、三人連れで来局される人たちも多くいらっしゃいます。田中さん(仮名)ご夫妻もいつも必ず二人で来局される患者さんで、このご夫妻には、少し独特なやりとりがありました。
奥さんのお薬についてヒアリングすると、必ず旦那さんが答えていたのです。
旦那さんの口癖
奥さんに特別な事情があるようには見えません。というよりも、奥さんがしゃべろうとしても、旦那さんが言葉をかぶせてくるのです。
旦那さんはよく「こいつは不器用でね、俺がいないとダメなんだよ」と得意げに言っていました。当の奥さんは、それをにっこり微笑みながら受け流します。
私の中でご夫妻は「旦那さんは、やや亭主関白な仕切り屋さん。奥さんはそれを一歩引いた立場で見守る人」という印象でした。
別れは突然に
ある日、いつものように処方せんを持ってきた田中さん。しかし、この日は旦那さんの姿はなく、奥さん一人だけの来局でした。不思議に思い尋ねると、奥さんはいつもの笑顔でその理由を教えてくれました。
「実はね、先日やっと離婚が成立したの。『俺がいないとダメ』なんて何様のつもりなんでしょうね。こっちから願い下げだったから清々したわ」
衝撃の一言でした。奥さんは、旦那さんを「しょうがない人ね」とただ見守っていたわけではなく、長年、笑顔の裏で旦那さんの振る舞いに怒りを積もらせていたのです。
離婚がもたらした光と影
離婚後の奥さんは、友人と旅行や習い事を楽しむそうで、とてもイキイキしていました。反対に、後日来局した元・旦那さんは別人のように覇気がなく、少しやつれた様子でした。
パートナーを本当に必要としていたのは、旦那さんだったのかもしれません。相手と対等な立場で向き合っていれば、結末は違ったのかも……と考えさせられた出来事です。
【体験者:40代・パート、回答時期:2025年5月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:S.Takechi
調剤薬局に10年以上勤務。また小売業での接客職も経験。それらを通じて、多くの人の喜怒哀楽に触れ、そのコラム執筆からライター活動をスタート。現在は、様々な市井の人にインタビューし、情報を収集。リアルな実体験をもとにしたコラムを執筆中。
 
				
				

 
							 
							 
							