クラスがざわつく進路の季節
高校3年生にもなると、進学や就職の話題でクラス全体の雰囲気はソワソワとしています。僕は1年生の頃から進路を決めていて、そのために勉強や面接練習も頑張っていました。
けれど友人の中には、夏休みが明けても進学先や就職先が決まらずに焦っている人も……。
高すぎる給料の求人
ある日、友人のミナトが「俺、ここに就職する!」と求人票を見せてきました。それは製造業の仕事で、手取りがやけに高いのです。「どうしてそこに?」と聞くと、「給料がいいから」とあっさり答えるミナト。
彼は注意力が散漫なところがあり、普段から何もない場所で転ぶような奴だったので、正直心配になりました。
漂う線香の香り
次の日、学校に行った僕は不思議なことに気づきました。ミナトの周りから線香の匂いがするのです。
「家で焚いた?」と聞いても、「俺んちアパートで仏壇ないから線香なんて焚かないよ」と笑うだけ。けれどその香りは何日も続き、しかも他の友人たちは気づかず、僕にしか分からないものでした。
胸騒ぎを覚えた僕は、ミナトが志望している会社について調べてみました。すると、何件もの転落事故が起きていて、亡くなった人も多いことが分かったのです。
警告のようなサイン
ミナトは注意散漫なタイプ。もしその会社に入ったら、事故に巻き込まれるのでは……。
もしかすると、僕だけが感じる線香の匂いは警告ではないかと直感しました。
そこで僕はミナトに事故のことを伝え、考え直すよう説得しました。
すると、他の友人たちも「うちの親も、あの会社は危ないからやめとけって言ってた」と加勢してくれたのです。
サインが消えた瞬間
はじめは渋っていたミナトでしたが、何人もの友人が自分を心配してくれる様子を見て、最終的に志望先を別の工場に変更しました。すると、その日を境にミナトの周りから漂っていた線香の香りはピタリと消えたのです。
ただの偶然かもしれません。けれど、あの香りが危険を知らせるサインであり、友人を救ったのだと今でも思っています。
【体験者:10代・男性専門学生、回答時期:2025年8月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:hiroko.S
4人を育てるママライター。20年以上、接客業に従事。離婚→シングルマザーからの再婚を経験し、ステップファミリーを築く。その経験を生かして、女性の人生の力になりたいと、ライター活動を開始。現在は、同業者や同世代の女性などにインタビューし、リアルな声を日々収集。接客業にまつわる話・結婚離婚、恋愛、スピリチュアルをテーマにコラムを執筆中。