新人教育をしていたある日
私は、入社3年目になる銀行員。1年目で新人教育の担当になり、マンツーマンで新人の小林くん(仮名)を指導していました。
ある日、「奨学金の一括返済をしたい」と30代の男性のお客様が窓口に来店。いつものように接客していると、「頑張って貯めた大切なお金だから、絶対にミスはしてほしくない。だから、もっとベテランにお願いしたい」と対応を拒否されてしまいます。
困り果てる私……
困った私は先輩や上司に対応をお願いするも、みんな接客中で代わってもらえず……。
「どうしよう……」そう思った私は、なんとか納得していただこうと交渉することにしました。
「お気持ちはよくわかります。しかし、他の担当者が全員接客中でして……。私が責任を持ってご対応するので安心してください」
説得も虚しく、お客様は「ベテランじゃないと嫌だ」と断固として拒否。
それならばと、他の担当者が終わるまで待っていただくようお願いしましたが、「お昼休憩を抜けて来ているので時間がない」と話は一向に進みません。
まさかの新人が登場
「もう、どうすればいいのよ」と頭を抱えていると、「先輩、僕に任せてもらえませんか?」と声をかけてきたのは、まさかの新人の小林くん。
いやいや、ここで新人が出てきたら余計に話がこじれちゃう! と必死に制止するも、「大丈夫です。僕に任せてくださいよ」と、なぜか自信満々でお客様の前へ颯爽と出て行きます。
「大変お待たせいたしました。ここからは新人の私がしっかりと対応させていただきます」
まさかの新人の登場にポカンとあっけにとられるお客様。
「え? 新人が対応? 僕はベテランをお願いしたのですが……」
成長した背中はグッと大きく
これではクレームが大きくなってしまう! と慌てふためく私をよそに、仲良く談笑を始めたお客様と小林くん。「ぜひ、君にお願いするよ」とまで言われ、スムーズに手続きを進めることができたのです。
どうやってお客様を納得させたのか気になった私は、小林くんに聞いてみることに。
「実は、僕も奨学金を返済中なんですよ。だから、頑張って貯めたお金を大切に扱って欲しい気持ちがわかるって伝えたら、お客様が共感してくれました」
それを聞いて、目の前の仕事をこなすことに囚われ、事務的だった自分の接客を反省。いつの間にか立派に成長した新人の背中がぐっと逞しく見えた瞬間でした。
【体験者:20代・女性、回答時期:2024年1月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
EPライター:島田歩実
元銀行員として、女性のキャリアやお金にまつわるあれこれを執筆中。アメリカへの留学経験もあり、そこで日本社会を外から観察できたこともライターとしての糧となる。現在はSNSなどを介してユーザーと繋がり、現代女性の声を収集中。